こりゃあ、使えるぞ!

 中日のドラフト3位田島慎二投手(22=東海学園大)がプロ初実戦でいきなりオープン戦の登板切符を手にした。紅白戦に登板し、決め球スプリットを駆使して2連続空振り三振など1回を無安打無失点に抑えた。少年時代、イチロー杯のMVPを獲得。昨年末、イチローを「うれしい報告があった」と喜ばせた右腕がプロの舞台で勝負に出る。

 観客が少しどよめいた。視線の先にいたのは主力選手でもなければブレーク中の高橋周でもない。背番号45の新人田島だった。5回に初のマウンドに上がると、先頭打者の松井雅を3球で空振り三振。続く吉川のバットも簡単に空を切った。最後は主力の大島を左飛に仕留めて任務完了。空振りはいずれもキレのあるスプリット。大島の打席では146キロ直球を披露するなど魅力満点だった。

 田島

 1イニングだったんで思い切っていけた。(捕手の)前田さんに得意な球を聞かれてスプリットと答えました。今日は単に結果が良かっただけです。こういう内容を続けていきたい。

 地元愛知で野球人生を歩んできた田島だが実はスパースターの“弟子”でもある。10年前にイチローが主催する「イチロー杯」でチームを優勝に導きMVPになった経歴を持つ。昨年末には「うれしい報告があります」と同杯の閉会式でイチロー自ら田島の名前を挙げてプロ入りを喜んだほど。プロ入りした時から“大物”なのだ。

 空振りを奪ったスプリットは大学時代に参加した社会人チームの練習で習得。今では「ゴロを打たしたいときはそこまで落とさない」と落差に微妙に変化をつけられるまで完成した。スライダーの岩瀬、高速フォークの浅尾と地元から球界を代表する救援投手になった先輩と同じ決め球がある。スリークオーター気味から投げ込む威力十分の直球とキレのあるスプリット。救援としての素質は十分だ。

 この快投劇には思わず首脳陣も反応した。高木監督は「ああいうボールを投げるなら評価できる。実戦でまた見たいとなる」と称賛。権藤投手コーチも「持ち味を出した。ロッテ(25日)阪神(26日)とのオープン戦で投げさせる」と早くも1軍登板にゴーサインを出した。新人の話題は高橋周に持っていかれていたが、ここに来ていきなりの猛アピール。“師匠”イチローが目を丸くするような活躍をするかもしれない。【桝井聡】

 ◆田島慎二(たじま・しんじ)1989年(平元)12月21日、名古屋市生まれ。御幸山中では瑞穂ブルーウイングス。中部大一2年時に捕手から投手に転向し、3年時には愛知大会で4強。愛知大学リーグの東海学園大に進学。最速149キロのストレートが持ち味。181センチ、84キロ。右投げ右打ち。家族は父、母、姉。

 ◆イチロー杯争奪学童軟式野球大会

 マリナーズ・イチローが大会会長を務め、小学校4~6年生を対象にした野球大会。実家に近い愛知県豊山町の豊山グラウンドなどで5月~11月にかけ開催。優勝、準優勝、3位の3チームは、イチロー本人が12月の閉会式で表彰する。昨年で16度目。

 ◆スプリットとは

 正式名称はスプリットフィンガード・ファーストボール。人さし指と中指の間をやや広げて投げる変化球。球速を保ったまま打者の手元で沈む。フォークに似ているが、フォークよりも浅く握ることで、より鋭く捕手に近い位置で落ちる。楽天田中が使い手として知られる。