<ソフトバンク5-1オリックス>◇1日◇福岡ヤフードーム

 もうだめだった。一瞬で両目が潤んだ。ソフトバンク新垣渚投手(31)が、復活のお立ち台に上がった。08年10月6日楽天戦以来、実に1273日ぶりの白星。グラブに刺しゅうした感謝の文字を聞かれると「そうですね、やっぱり応援してくれた…」と声を詰まらせ、涙がぼとぼと落ちた。「家族に…、感謝したいです。うれしいですし、早く家に帰りたい」。ゆい夫人と1歳の長女美日(びび)ちゃんに向け、泣き笑いの顔で感謝した。

 ファンへの第一声は「ただいまです」。その言葉を120球に込めた。1軍リーグ戦は09年5月9日西武戦、29歳の誕生日に3回途中5失点KOされて以来。真っさらなマウンドに向かうとプレートに右手を乗せて、帰還を“報告”し、復活ショーを静かに始めた。

 先頭の坂口に安打されるも、ここから打者22人連続で安打を許さない。丁寧に、コーナーを突き、凡打を引き出した。かつて最多奪三振を獲得した剛球ではない。07年に年間25暴投の日本記録を樹立した暴れ馬でもない。テーマは脱力。「どういう形であれ打者に投げるのが仕事。たとえ不細工でもいい」。あと1人で完封こそ逃したものの5安打1失点、無四球で9回を投げきる新垣がいた。

 右肩痛がとれず、手術も検討した。「肩が痛いのがつらかった。そんなに投げられない期間がくるとは」。腰痛も発症。先の見えない毎日で支えは家族だった。「娘が何事も必死に成長しているところを見ると、自分の考えていることが小さいなと」。不思議と活力が湧いた。昨年から投球の不安が消え、11月のアジアシリーズに登板。今キャンプで力を示して、この日をつかみ取った。

 「3年ぶりに戻ってきて、優勝できるよう、先発ローテを守れるよう頑張ります」。長い空白を埋める舞台はたっぷり用意されている。【押谷謙爾】