<ヤクルト12-4中日>◇4日◇神宮

 手がつけられない!

 ヤクルト・ウラディミール・バレンティン外野手(28)が今季2度目の1試合3発だ。2回、昨年14打数1安打に抑えられていた中日吉見から左翼へ21号先制2ランを放つと、もう止まらない。次打席も吉見から適時打を放ち、6回には高橋聡、8回には小笠原から1発。8打点の荒稼ぎで大勝をもたらした。68試合消化し、23本塁打、55打点とリーグ2冠を猛進中だ。

 打つんじゃないか。球場を包むヤクルトファンの期待感に応えるように、バレンティンのバットがうなりをあげた。8回裏2死一塁、外角高めの速球だった。「追い込まれていたから、コンパクトにいった」と言いながら、打球はあっという間にバックスクリーン右に飛び込んだ。この日、3本目の本塁打。8打点でチームの勝利を引き寄せた。

 3本の本塁打のうち、最もチームを勇気づけたのは1本目だった。中日の先発吉見から、詰まりながらも左翼席へ運んだ。昨年、何度も煮え湯を飲まされた天敵。バレンティンも14打数1安打と苦しめられた。リーグ優勝をさらわれる要因にもなった苦手な相手からの1発は、成長の証しになった。

 屈辱を振り払うため、オフの間、全打席のVTRをチェックし、傾向を読んだ。「詳しくは言えないけど、谷繁さんはいろんな組み合わせの組み立てをしてくる印象。その都度、対応していきたい」。第1打席は無死一塁の場面。「併殺を狙って内野ゴロを打たせに来るんじゃないかと思った」と、内角のシュートを読み切っていた分、押し込まれたバットを押し返せた。

 この日は28歳になって初めての試合だった。気分良く試合に臨むことができていた。2日の誕生日には家族で買い物に行き、緑色のポロシャツとスニーカー。そして新しいダイヤのピアスを買ってもらった。その輝き同様に、この日の打撃は光っていた。

 最近では打撃コーチだけではなく、宮本が打撃練習をチェックしてくれている。「今日は良かったね」などと声をかけられる。見られていると思うことで生まれる程よい緊張感。その成果か、ここ4試合で5発。今季2度目の1試合3発。「暑くなれば体調も良くなる。気温が上がった方がいい」と、陽気なカリビアンは気分良くなるばかりだ。

 ファンの声援に両手を上げて応えながらも、興奮した感情は沈めた。「どこのチームもいろんな手を使って抑えようとしてくると思うけど、自分のプランを持って、しっかり戦っていきたい」。感じ取れるのは集中力あふれる精神状態。こういう時、この男を止めるのは至難の業だ。【竹内智信】

 ▼バレンティンが3本塁打を含む4安打、8打点の大暴れ。1試合3本塁打は昨年5月13日横浜戦、今年5月1日DeNA戦に次いで自身3度目。1試合3本塁打以上をシーズン2度は11年スレッジ(横浜)以来12人、13度目。ブライアント(近鉄)が89年に4度、通算では8度記録しているが、ヤクルトではシーズン2度、通算3度ともにバレンティンが初めてだ。また、1試合8打点以上は11年7月30日スレッジ以来で、ヤクルトでは02年7月6日ラミレスが9打点記録して以来、10年ぶり5人目。