<ヤクルト9-0阪神>◇15日◇神宮

 ヤクルトのウラディミール・バレンティン外野手(29)が、シーズン56本塁打のプロ野球新記録を樹立した。

 バレンティンが放った56号本塁打は、試合観戦に遅れて来た阪神ファンの男性から、本人の手に戻った。

 日本記録を塗り替えるメモリアルボールをキャッチしたのは、静岡県から会社の同僚ら計6人で観戦に来た会社員成岡祥さん(26)。幸運の瞬間は、センターバックスクリーン裏からスタンドに入場した直後に訪れた。通路で自分の座席を探していた時だった。大きな歓声が突如として自分が歩いていた周辺に向けられた。グラウンドを振り返るとホームランボールが見え、次の瞬間、通路にバウンドしたボールが、足元に転がってきたという。

 「もう頭が真っ白でした」。球場アナウンスで、バレンティンの打席だということは知っていた。ホームランボールめがけて、周囲のファンが押し寄せるのを感じながら、ボールをガッチリとつかんだ。「56号を見られたらいいとは思っていましたが、捕ろうとは思っていませんでした」。

 大型の台風18号が迫る中を車で上京した。試合に遅刻した直後の出来事、グラブも持参していなかっただけに成岡さんは周囲のファンに恐縮しきりだった。

 阪神ファン歴3年。好きな選手は前日退場となり、この日出場停止のマートンという皮肉な巡り合わせでもあった。ホームランボールは基本的にファンのもので自分で持ち帰ってもいい。それでも「日本記録を塗り替えたこのボールは打った選手が一番欲しいはず。本人の手に戻るべきだと思った」。

 試合後には、球場内の会見室で、バレンティンと対面。56号のホームランボールを、サインバットなどと交換した。バレンティンは成岡さんのタイガースTシャツを見て、「ノータイガース」とジョーク交じりにヤクルトのユニホームで隠して記念撮影に応じた。成岡さんは「いやあ、ああいう場面でジョークも言ってくれて、いい人ですね」と感心した。一瞬だけ、阪神ファンであることを忘れていたようだった。【清水優】