新守護神は魔球使いだった。阪神の呉昇桓(オ・スンファン)投手(31=韓国・サムスン)が25日、キャンプ地の沖縄・宜野座球場での練習をスタートした。約2時間、汗を流し、キャッチボールでは独特の握りでカーブを投じた。韓国時代にはほとんど投じていなかったボールだが、直球と決め球カットボールの存在感を際だたせる。秘密兵器を手に、日本球界に殴り込みだ。

 一瞬フワリと浮き上がると、鋭くタテに落ちた。「宜野座カーブ」で有名な沖縄・宜野座。さすがに宜野座カーブを呉昇桓は知らないだろうが、インパクト大の“魔球”を初披露だ。遠投を終え約30メートルの距離になると、おもむろに変化球のジェスチャーを出した。スライダー2球の後、繰り出したのが2球投げたカーブだった。「ブルペンに入る前なので、感覚を生かすために投げている。緩急は抑えには、あまり意味がないとは思いますけど」。涼しい顔で振り返ったが、握り方は通常と大きく違っていた。

 球の縫い目に人さし指と中指をそえ、親指の側面で支えるのが一般的。だが、呉昇桓の場合、大きく折られた親指の指先はボールにまったく触れておらず、関節から手のひらに近い部分だけでボールを支えている。人さし指と中指はくっつき、縫い目に指先を引っ掛けている。小指と薬指もくっつき、ボールに添えられているのは薬指の一部だけ。小指は球に触っていない状態だ。「韓国時代に落合さん(英二=前韓国サムスン投手コーチ)から遅い変化球に関して学んだり話を聞いていたので、練習してきた」とルーツを明かした。

 新たな“引き出し”は、対戦打者にとって嫌なはずだ。見守った山本スカウトによると、韓国時代は直球とカットボールがほとんど。スプリットとカーブも持ち球にはあったが「数回見たくらい。何を投げているのかと思った」という。平均球速150キロの直球に、90キロ台のスローカーブが加われば鬼に金棒だ。

 多投する可能性もある。基本スタイルは直球にカットボールだが、捕手のサインに首を振るつもりはない。「捕手のほうが打者をよく分かると思う。(カーブが)いいと思えばサインを出すだろうし、悪いと思えば出さない。サイン通りに投げようと思う」と日本の野球に従う覚悟だ。

 連投の可能性もあるストッパーだけに球種が多いに越したことはない。約2時間のトレーニングで見せた秘密兵器。石仏の引き出しはまだありそうだ。【池本泰尚】

 ◆魔球の使い手

 ソフトバンクに移籍したスタンリッジは人さし指を折り曲げて投げるナックルカーブを得意とした。中日浅尾は人さし指、中指、薬指をボールから離すパームボールが武器。また中日岩田はナックルのような無回転フォークを投げる。小宮山悟氏(日刊スポーツ評論家)はフォークの握りでナックルの投げ方をする「シェーク」を投じた。ちなみにキャンプ地の沖縄・宜野座のすぐ隣にある高校の宜野座は、01年春の甲子園で4強入りしたが、投手が手の甲を捕手に向けてリリースするカーブを投じて注目された。このボールは一瞬浮き上がり急激に落ち、「宜野座カーブ」と名付けられた。