若虎たちよ、俺の球を打て-。阪神掛布雅之GM付育成&打撃コーディネーター(58=DC)が2月1日のキャンプインを皮切りに打撃投手を務めることを明かした。現役時代、開幕満塁弾を打撃投手が予測していたというエピソードを披露し、投手の視点からスイングチェックする重要性を説いた。安芸で、沖縄で、若虎のために身を削ってマウンドに立つ。最高のストーリーは、掛布DCの熱投を受けた虎戦士による3・28開幕G倒満塁弾だ。
準備はひそかに進められていた。この日、鳴尾浜球場での自主トレを視察した掛布DCが、キャッチボールを始めた。2・1を4日後に迎えた段階。無意味であるはずがない。キャンプへ向けての肩慣らし。安芸のマウンドに立つ覚悟を固めていた。
「投げる機会はあると思うよ。投げる、投げる。センター方向から打者を見ることはよくあるからね」
評論家として掛布DCは打撃ケージの裏からだけでなく、時にセンターカメラの位置から打者を追う。いわゆる投手目線でのチェックだが、得られる情報は驚くほど豊富だという。
「肩がすぐに見えてしまうとか、バットが出てくる角度がいいとか、いろいろなことがわかる」
ここまで語ると、掛布DCは現役時代のエピソードを披露した。1977年4月2日、神宮でのヤクルトとの開幕戦。その第1打席。相手エース松岡から右翼へグランドスラムを放ったのだが、これを試合前から“予言”していた人物がいたという。
「いつも投げてもらっていた打撃投手が試合前、俺に言ったんだよ。『今までで一番いい。バットが見えない。投げていて怖かった。絶対にホームラン打てますよ』って。たぶん、自分の打撃を一番わかっていたのは打撃投手だと思う」
その打撃投手はラインバック、田淵、ブリーデンのクリーンアップをよそに、チーム1号は掛布だと、確信していたという。それほど投手は打者の状態がよくわかるという1つの例。打撃投手への準備は、それだけ掛布DCが若虎チェックに心血を注いでいる裏返しだろう。
掛布DCは、後に阪神の4番へと駆け上がっていく中で、阪急、阪神で活躍し、78年オフに引退した新井良夫氏を専属打撃投手にした。落合博満や、金本知憲や、イチローがそうだったように、大打者には自らを最もよく知る“相棒”がいた。
「マウンドで投げていて、気付くことがあれば言ってあげたいね」
2月中旬には沖縄・宜野座入りする予定。安芸の若虎だけでなく、今成、新井良、森田、伊藤隼ら「チルドレン」たちにも投げ込むかもしれない。和製大砲育成という使命を背負ったミスター・タイガースは真っ向から選手たちと向き合う。【鈴木忠平】
▼掛布DCの77年開幕ヤクルト戦の満塁弾VTR
4年目だった掛布は、6番三塁で先発出場。初打席の1回2死満塁。ヤクルト先発松岡のカウント2-2からの5球目真ん中低めのストレートを右翼へ自身公式戦初のグランドスラムを放った。試合は6-3で勝利した。掛布氏の満塁弾は通算6本で開幕戦は77年の1本だけ。開幕戦アーチは79年から2年連続を含め4本放っている。



