甲子園に神様がやってくる。阪神は外れ1位で法大の二神(ふたがみ)一人投手(4年=高知)の交渉権を獲得した。二神は150キロ台の直球を武器にする本格派右腕で、高知3年時には他校の不祥事で夏の甲子園に代替出場を果たすなど、不思議な縁があった。名字にあるとおりに「神」が真弓阪神の救世主となる。6球団で指名競合した菊池を外した阪神は、1位抽選で11連敗となった。

 暗闇の中、無数のフラッシュがたかれた。ドラフト会議が行われた都内を離れ、真弓監督が川崎市内の法大野球部合宿所を突撃訪問した。1位に指名された二神は玄関前で出迎え「初めまして。二神です」と緊張の第一声。指揮官が「よろしくお願いします」と答えると、表情が一気に和らいだ。指揮官が差し出した右手を両手で握ると、最高の笑顔が浮かんだ。

 赤い糸で結ばれているのだろうか。甲子園に愛された男、二神が再び聖地に戻ってくる。「高校生活でも目指した場所。ああいう形で出場して勝てなかった。やり残したことがある。チャンスというか、自分に縁があったと思いたい」。

 甲子園-。ドタバタ劇が脳裏をよぎる。高知3年の05年夏。エースとして県大会決勝まで進みながら、明徳義塾に延長12回で2-3と惜敗。夢を絶たれた。心が空っぽになった矢先、驚きのニュースが飛び込んできた。明徳義塾の不祥事により甲子園に代替出場。初戦で日大三に敗れはしたが、確かな足跡を聖地に残した。4年後、まさかさらにリベンジの機会まで与えられるとは…。しかも菊池の外れ1位。強固な縁を感じずにはいられない。

 「歴史と伝統がある、プロ野球界を盛り上げているチーム。注目度の高い球団に指名されて本当にうれしいです」。

 まさに縁尽くしだ。出身地の高知県は阪神が長年キャンプを行ってきたおひざ元。小学3、4年のころ、実際に安芸キャンプを見学した。さらに胸を躍らされるのは高知出身の大先輩の存在だ。「藤川投手は高校時代から見ていた人。藤川さんのようなストレートを投げられる投手になりたい。長い間、活躍されている選手。プロで生きていく術、良いところを吸収して、自分もレベルアップできるように。向上心を持って頑張りたい」。壁は高い。それでも虎の守護神に1歩でも近づけるよう、若虎らしく大きな理想を掲げた。

 指揮官の思いも直接に受け取り、意欲は高まるばかりだ。1年目から即戦力、ローテ入りと期待は大きい。「わざわざ足を運んでいただいて、うれしくて…。直接(言葉を)聞いて、期待に応えられるように、今から目標に向けてしっかり頑張りたい。開幕1軍目指して、シーズンを1軍でいられるよう、第一線でやっていきたい」。さわやかな表情から漂う、並々ならぬ気合。150キロ右腕の新たな旅が、まばゆいフラッシュを浴びながら幕を開けた。