元WBC世界バンタム級王者辰吉丈一郎(45)のドキュメンタリー映画「ジョーのあした-辰吉丈一郎との20年-」(阪本順治監督)が20日から公開された。94年12月の薬師寺保栄戦から14年11月の次男寿以輝(じゅいき)のプロテスト合格までを追ったもので、故郷・岡山県倉敷市に家族とともに墓参りをする場面がある。それを見て13年前を思い出した。

 03年1月31日だった。辰吉が父粂二(くめじ)さん(享年52)の命日に墓を掃除するために、家族とともに故郷に戻った。ジャージー姿の辰吉がまだ新しい墓に水をかけていた。息子2人がはしゃぎ回る中、墓の前も後ろも横も念入りに洗う。墓の下部には2つの赤いグローブもかたどられていた。ただそこに遺骨はない。「もう1度世界王者になってベルトと一緒に納骨する」。それが辰吉のモチベーションだった。

 なぜ里帰りに同行して取材したのか、その経緯は覚えていない。1月にしては暖かい日差しの中、空っぽの墓を洗う辰吉を見ていたこと、子どもが走り回ってるみ夫人に怒られていたことを覚えている。粂二さんの遺骨は今も大阪・守口市内の自宅に置いてある。

 当時6歳だった寿以輝は19歳になり、3月27日に4戦目を迎える。次男にとって骨つぼは物心ついたころから自宅にあった。父のこだわりも知っている。

 プロデビュー戦前に、こう聞いたことがある。「将来、世界のベルトをとったら、おじいさん(粂二さん)を納骨してあげたいという気持ちはある?」。寿以輝はじっくりと考えた後でこう言った。「それは別じゃないですかね。別ですね」。安易に「そうですね」なんていわない。父のこだわりは父のこだわりとして自分は自分の道をいく。辰吉家の新しい物語を楽しみにしている。【益田一弘】