プロボクサー比嘉大吾(22=白井・具志堅スポーツ)が減量に失敗し、WBC世界フライ級王座を失った。前王者としてリングに上がり、9回途中TKO負けを喫した翌日の16日、元世界3階級王者長谷川穂積氏(37)に話が聞けた。「もうこれ以上ええでしょ? 彼をたたくんは、もう今日までにしましょう。まだほんまに若いし、先があるボクサーやから」。少し悲しそうだが、優しかった。

WBC世界フライ級タイトルマッチ ロサレスに破れ、一礼する比嘉大吾(2018年4月15日撮影)
WBC世界フライ級タイトルマッチ ロサレスに破れ、一礼する比嘉大吾(2018年4月15日撮影)

 自らも苦しんだ。死ぬ思いで体重を落とした。「あかんと思ったこと、ありますよ。バンタムの時は毎回。最後は必死で練習して(落ちるのは)50グラム。50グラムってたまご1個分。“こんなんやったら、練習せん方がええ”と思ったりしてね」。最初に世界王者になったバンタム級で11度目の防衛に失敗するとフェザー級に転向。一気に2階級上げた。結果「国内ジム所属選手初の飛び級2階級制覇」を成したが、裏返せば、スーパーバンタム級でも苦しかったのだ。

WBC世界フェザー級王座決定戦でブルゴス(左)を破り2階級制覇を達成した長谷川穂積氏(2010年11月26日撮影)
WBC世界フェザー級王座決定戦でブルゴス(左)を破り2階級制覇を達成した長谷川穂積氏(2010年11月26日撮影)

 比嘉の罪は重い。具志堅会長、トレーナーら周囲の責任もあるが、最終的には本人の問題。だから、問うべき責任を問うことが、逆に比嘉のためだ。比嘉と同じ沖縄出身で元WBC世界スーパーライト級王者浜田剛史氏は「減量は何キロ落としても自慢ではなく当たり前。沖縄ファイターが出て盛り上がっていたが、大きく裏切った。技術、根性すべてが飛んだ」と言った。比嘉を思えばこそ、強烈な叱責(しっせき)が口を突いた。

1回目の計量で900グラムオーバーとなりうなだれる比嘉大吾(左)は具志堅用高会長から声をかけられる(2018年4月14日撮影)
1回目の計量で900グラムオーバーとなりうなだれる比嘉大吾(左)は具志堅用高会長から声をかけられる(2018年4月14日撮影)

 浜田氏が責め、長谷川氏がかばうのは、すべて“比嘉の明日”を守るためなのではないだろうか。

 長谷川氏は引退後も「ボクサー」であり続けている。体重63キロは現役時のナチュラルウエートと変わらない。基本的に毎朝7キロ~12キロ走る。ミット打ちを最低6回はこなし、サンドバッグもたたく。「やってないの、ダッシュぐらいですかね」。仕事や用事がなければ、ほぼ毎日、現役時と同じ練習をする。

ミット打ちを披露する長谷川穂積氏(2018年4月16日撮影)
ミット打ちを披露する長谷川穂積氏(2018年4月16日撮影)

 引退したのに、なぜ?

 「ボクシングをやってたら、僕はすべてに自信を持てる。自分に負けない自分でいられる。(プロで)17年間やって、そうなった。練習も、その日の自分に勝ちたいと思ってやる。達成感はやった者にしかわからんと思いますよ」

 10年後か、15年後か。比嘉がグローブを置いた時、同じ言葉を口にしてほしい。【加藤裕一】