まだ観客の少ない館内がざわついた。西幕下24枚目一木(いちき、23=玉ノ井)と同幕下25枚目竜勢の一番。一木の決まり手は「居反り」だった。一木は「初めてです」と興奮気味に振り返った。幕下の中でも実力が拮抗(きっこう)する、30枚目以上同士の対戦では、95年夏場所の千代の翔以来となる、22年ぶりの珍手だった。

 一木は身長172センチ、体重105キロの小兵タイプ。対する竜勢は181センチ、120キロ。一木の左肩越しから、半身になりながら左上手を取る相手を左肩に乗せて「必死にくらいつきました。(居反りは)流れでした」と、腰を深く落として、万歳するように後方に投げた。

 居反りは幕内では64年夏場所の岩風、十両では93年初場所の智ノ花以降、出ていない。だが、それよりも勝ったことがうれしかった。「とりあえず勝ち越せた」と16年初場所の前相撲での初土俵から6場所連続で勝ち越したことを喜んだ。

 居反りの代名詞とも言える十両宇良は「自分は関係ないです」と言いつつ「居反りキャラはどうぞ。跡継ぎで」と譲った。角界入りしてまだ2年目の一木。「相撲の型はまだ決まってないんです」。居反りの一木と呼ばれる日はくるだろうか。【佐々木隆史】