<プロボクシング:WBC世界バンタム級タイトルマッチ>◇30日◇東京・日本武道館

 日本のエースが、まさかの王座陥落だ。WBC世界バンタム級王者の長谷川穂積(29=真正)は、WBO(日本未公認)世界同級王者フェルナンド・モンティエル(31=メキシコ)との事実上の“統一戦”に4回2分59秒TKO負けした。ラウンド終了間際に強烈な左フックから連打を浴び、レフェリーストップ。11度目の防衛に失敗し、悔し涙を流した。今後は現役続行が濃厚で、陣営はモンティエルとの再戦を希望した。

 

 何という結末か。長谷川が負けた。それは、あっという間の出来事だった。4回残り8秒。飛び込みざまにショート気味の左カウンターを食らった。慌てて右を返そうとしたところに、一瞬速くモンティエルの長い左フックを、まともに被弾した。ロープ際まで後退し、めった打ちにされた。

 首が、顔が、大きくゆがむ。左腕をロープにかけて踏ん張り、下げた頭を必死に振った。パンチの雨はやまない。レフェリーに止められた。「NO」と声を上げて続行可能をアピールしたが、時既に遅かった。あと1秒あれば、ラウンド終了のゴングが鳴っていた。

 控室での意識はしっかりしていた。「流れは自分のペースと思ったが…。気を抜いたところにもらった。油断でしょうね」。人生初のKO負け。具志堅用高(元WBA世界ライトフライ級王者)が持つ13度に次ぐ国内2位の防衛記録が10度で止まった。感情は言葉にならない。「悔しさはありますし、ただ…」。目にいっぱいの涙があふれた。

 3回までリードしていた。採点はフルマークが1人と、1点差が2人。すべてはプラン通りに進んでいた。右ジャブをいつもより多用。2回に右フックをヒットさせた。相手の得意な左フックは見切っていたように見えた。ただその威力は、想像を超えていた。1回には左をもらい、右奥歯がグラついた。2回の開始前、セコンドに「パンチ、めっちゃ硬い」と漏らした。

 「負けたが、あれが実力。言い訳できない。コンディションは最高だった」。昨年12月にV10達成。それを境にテレビ出演が急増した。ただ決戦が迫ると、大手製薬会社など数社から届いた全国CMの初オファーを惜しげもなく断り、練習に集中していた。

 強い相手を求めていた。WBOは日本未公認のため、勝っても相手のベルトは手にできなかった。それでも事実上の“王座統一戦”は、待ち望んだ舞台だった。1回途中、スリリングな攻防が一段落すると「やるな」とばかりにニヤリと笑った。負けたにもかかわらず「この試合は試合で満足している。やってて楽しかった。駆け引きが面白かった」。今までにない高揚感があったのも確かだ。

 今後について多くを語らない長谷川に代わり、山下正人会長は「これで終わりじゃない。オレはもう1回、バンタムでモンティエルと勝負したい」と再戦を求めると、長谷川も「自分もできるならやりたい」と続けた。5年にも及ぶ長期政権は幕を閉じた。だが、長谷川のボクシング人生が終わったわけではない。きっと、はい上がってみせる。もっと強く、より強くなるために。【大池和幸】