3年ぶりに十両に復帰した炎鵬(31=伊勢ケ浜)が勝った。2023年夏場所で脊髄(せきずい)損傷の大けがを負い、7場所連続休場後、序ノ口からはい上がってきた。

そんな炎鵬に温かいまなざしを送っていた1人が、元大関貴景勝の湊川親方(29)だ。

3月25日、夏場所の取組編成会議で炎鵬の再十両が決定した。その日、湊川親方は炎鵬に電話を入れた。「本当におめでとうございます。自分のことのようにうれしいです」。心からの祝福を送った。

部屋はもちろん、一門も出身校も違う。学年は炎鵬が2年上だが、高卒の湊川親方の方が大卒の炎鵬より2年半入門が早い兄弟子になる。接点はどこにあったのか。

なぜ電話を入れたのか。湊川親方に聞いた。

「現役時代の最後の方、首が悪かったんで、いい治療院の情報の共有をしていました。お互い、大きくなくて、首が万全でなかった。僕は現役時代、仲良くした力士はいませんが、同じ首のつらさを分かっているので、いい方向にいくようにたまに会話をしていました」。

対戦は3度ある。いずれも貴景勝が大関だった時、幕内上位に昇進した炎鵬を3度とも下した。貴景勝は首のケガも影響し、28歳だった2024年9月に引退した。炎鵬はこの時、復帰から2場所目、序二段で戦っていた。

湊川親方は、こう続ける。

「引退してからは戦うことがなくなって、彼は必死に自分を信じてやってきました。もう1回、返り咲いてほしいと思って見ていました。本当に(関取に)戻って、自分じゃないのに、弟子以外でこんなにうれしいのはなかなかない。だから、関取に返り咲いた時、連絡しました。自分を信じて、報われたってのがめっちゃうれしかった」。

貴景勝は身長173センチ、炎鵬は167センチ。ともに背が低く、勝てなかったり、ケガをしたりすると、周囲からの限界説がうっすらと耳に入る。自分の心と闘うことになる。

首は鍛えても鍛えきれない。湊川親方によれば、同じ首の痛みでも施術との相性によって効果に個人差があるのだという。良くなる可能性があるなら、あらゆる方法を試し、わらにもすがるような気持ちになる。

だからこそ、湊川親方は、注目されずにもがいた時期に価値を求める。

「(炎鵬には)かみしめてほしい、この声援を。その裏で、期待されなかった時期を僕らは忘れてない。その辛抱が美しく、かっこいい。勝ったことより、耐え抜いて自分を信じ切って勝負した。そこが彼の美しいところだと思います。いい時は、反対意見も打ち返せます。調子がよくない時は、ネガティブな言葉が刺さるんです。それをはねのけた数場所を、ファンの人には知ってもらいたい。乗り越えた背景、彼の深みを知ってもらいたいんです」。

現役時代に周囲となれ合うことなく、首の痛みと向き合ってきた。苦しさを知るからこそ、炎鵬の空白期間にも思いを寄せる。

炎鵬は、あの日の電話に感謝している。【佐々木一郎】