<プロボクシング:ノンタイトル8回戦>◇2日◇東京・後楽園ホール

 19歳の怪物が衝撃デビューを飾った。高校生史上初のアマ7冠を獲得した井上尚弥(大橋)がプロデビュー戦で、東洋太平洋ミニマム級7位クリソン・オマヤオ(19=フィリピン)に4回2分4秒KO勝ちした。開始早々、右ボディーブローでダウンを奪うと、その後も優勢に試合を進め、最後は豪快な左ボディーブローで仕留めた。アマ時代の練習仲間だったロンドン五輪金メダリスト村田諒太(26)が「化け物」と例えた逸材。プロのリングでも、その実力を証明した。

 立ち見も出た満員の後楽園ホールに「尚弥コール」が渦巻く。3回制のアマでは未知の4回。井上は左ボディーブローをオマヤオにたたき込んだ。うつぶせに倒れた東洋太平洋ランカーは、テンカウントのゴングが鳴った後も、しばらく立てなかった。

 試合開始のゴング直後から怪物ぶりをみせた。1回1分20秒、右ボディーブローを相手のみぞおちに決め、ダウンを奪った。立ち上がった相手はフラフラだったが、あえてKOは狙わなかった。実は10日前に右拳を負傷していた。スパーリングも中止。この日も痛みがあったため、全力のパンチは1発もない。抑え気味に打ちながら、最後はしっかりKOで仕留めた。

 高校生では史上初のアマ7冠も五輪出場の夢は逃した。ロンドン五輪予選を兼ねた4月のアジア選手権(カザフスタン)では地元選手に5ポイント差で敗北。不運な地元判定とはいえ、1ポイントの大切さを痛感した。神奈川県内の自宅の居間には「1ポイントの差

 紙一重

 わずかな差だけど天国と地獄」の言葉が張ってある。この日も、1秒たりとも油断せず、自分のボクシングを心掛けた。

 アマチュアボクサーだった父にあこがれ、小学校1年からボクシングを始めた。以来、1日5時間以上、親子二人三脚で厳しい練習を続けた。練習時間以外も、車での移動時間に練習の映像を見ながら反省会。神奈川県内の自宅に帰宅後も食事での親子の会話はガードの高さ、フェイントの仕方など「いかに戦うか」を語り合う。父真吾さんは「試合の1カ月前からは、寝るとき以外は戦闘モード。ボクシング漬けです」と証言した。

 プロ転向時、大橋ジムとの契約書には「強い選手と戦う。弱い選手とは戦わない」と、本人の希望で異例の条件を入れた。次戦は1月、WBA世界ライトフライ級4位のウィサヌ・ゴーキャットジム(タイ)との対戦が内定。井岡一翔を超える6戦目の世界挑戦も見えてくる。この日は相手の大振りのフックを被弾する場面もあっただけに「ガードがラフだった。明日からでも練習したい」。「怪物」「化け物」の形容詞はうそではない。【田口潤】