ロンドン五輪男子ミドル級金メダリストの村田諒太(27=三迫)が、ド派手にプロ第1歩を踏みだした。16日、東京・後楽園ホールで受験したA級ライセンスのプロテストに合格。実技では前日本同級王者の佐々木左之介(25=ワタナベ)と拳を交え、攻守ともに高レベルの動きを披露した。テレビ生中継の「公開受験」で実力を見せつけ、7月にも予定されるプロデビュー戦に弾みをつけた。

 迫力満点のプロテストだった。ヘッドギア装着、試合用の10オンスではなく、14オンスの大きいグローブだが、村田はプロで通用する強さを示した。ファイター型の佐々木に対し、1歩も引くことはなかった。足を止めてガードを下げ、自らの距離に入るとパワー十分の右ストレートを打ち込んだ。「テストなので倒す、倒さないではなく、自分の技術をみせた」と振り返ったが、鈍いパンチ音を次々と響かせ、会場を沸かせた。

 開始当初、観客から「佐々木、倒しちゃえよ」との声も出たが、村田の両拳がすべてどよめきに変えた。アマ仕込みの強いガードに加え、接近戦では強烈な右アッパーでのけぞらせた。ヘッドギアをつけていても相手の顔面を赤くした。スパーリング後、佐々木は「アッパーを警戒していたが、うまいですね。しかも速い」と脱帽するしかなかった。

 プロテストの第1関門・筆記試験は、90点と満点ではなかった。村田は「2問ぐらい分かりませんでした」と照れ笑い。その後の計量、ロープ(縄跳び)、シャドーボクシング、検診と順調にこなし、公開スパーリングから約80分後、リング上で日本ボクシングコミッションの森田健事務局長から合格証を手渡された。「長時間戦っても崩れないバランスが大切だと思います」と決意を新たにした。

 48年ぶりの五輪金メダリストのプロ転向に注目度は高い。所属先の三迫ジム陣営は予定していた8月デビューを7月への前倒しを検討。また3、4戦目で東洋太平洋か日本の王座挑戦、順調に勝利すれば7、8戦目、遅くとも10戦以内に世界戦との青写真を描く。村田は「金メダルは誇り。プロの下にアマがあるのではないという自分の信条を否定することになるので負けられない」と気持ちを引き締めた。

 日本で初となる五輪金メダリストの世界王座奪取へ-。「プロになるからには世界王者が目標。あとは誰もが認めてくれるボクサーになりたい」。世界で最難関、黄金のミドル級と呼ばれる階級を軸に「プロでも金」を目指して突き進む。【藤中栄二】

 ◆村田諒太(むらた・りょうた)1986年(昭61)1月12日、奈良市生まれ。伏見中1年でボクシングを始める。南京都高で高校5冠。東洋大では04年の全日本選手権ミドル級で初優勝。08年に1度は引退するが、09年春に復帰。11年世界選手権では日本人過去最高の銀メダル。ロンドン五輪で日本人48年ぶりの金メダル獲得。右ファイター。家族は夫人と1男。182センチ、77キロ。

 ◆プロテスト

 スパーリング形式の実技、計量、ロープ(縄跳び)、シャドーボクシングなどの試験と検診、ボクシングの知識を問う筆記試験で構成。1日のうちに、ペーパーテストと2~3回程度のスパーリングを行って合否を判定。通例では試験翌日に合格発表がある。A級ライセンスは8回以上(8回制、10回制、12回制)の試合が可能。プロテストはC級(4回戦)、B級(6回戦以下)まで設定。ただアマで五輪や世界選手権などで実績を残したボクサーがB級を合格し、申請が通れば特例でA級を取得可能。