大相撲春場所で自身が持つ最多記録を更新する34度目の優勝を決めた横綱白鵬(30=宮城野)が23日、大阪・堺市内のホテルで一夜明け会見を行った。テレビカメラ計11台、約60人の報道陣が詰めかけた席で29分間、初場所後に起こった“舌禍”騒動以後の心境について言及。審判部への批判の真意は語らなかったが、自らの思いが伝わらない悩める胸中を打ち明けた。

 どこか、今までと違う会見だった。口調は、これまでの一夜明けと変わらない。午後からになったとはいえ、まだ眠たげで、優勝した心地よさに包まれているような、穏やかな話し方。では、何が違ったのか。横綱白鵬の本音、何より「苦悩」が見えたことだった。

 春場所の15日間、無言を貫いた。背中を向けることに意見は分かれるが、話さない力士は過去にもいる。真意は人それぞれ。では、白鵬の考えは-。「やっぱり思いはたくさんありますけど、それが伝わらなかったし…」とつぶやいた。思いが伝わらない-。数多くあるのだろう。その1つに「誤訳」も思い浮かんだ。

 2月中旬。モンゴルで日本の国民栄誉賞に相当する「労働英雄賞」を授与された。モンゴル語のスピーチ。通信員を派遣した弊社は「父はいつも『私は20世紀にモンゴル相撲の横綱になり、息子は21世紀に大相撲の横綱になった』と言っていた」と伝えた。だが、日本では広く「父は20世紀の大横綱。私は21世紀の大横綱になった」と報じられた。自ら「大横綱」と言ったとされ「不遜」だとされた。関係者に確認してもらうと、誤訳だった。

 白鵬が自ら、こうした苦悩の一端を打ち明けた。そこに以前と少し違う姿を感じた。14日目の稀勢の里戦で右に動いたことについて、身ぶり手ぶりを交えて説明した。そこにも「伝えたい」という思いを受けた。

 初場所後の一夜明けで、自ら審判部を批判したことは確か。たとえ横綱でもあってはならない。白鵬に非があることは疑いがない。だから、騒動に発展した。

 それらは表面上、収束した。批判された審判部内には不満を抱く親方がいて、関係が改善されたわけではないが、本人の「終わったこと」という言葉は事実でもある。だから、我々が謝罪を求めることは違う。もし謝るのであれば審判部にすべきこと。そこは間違えないようにしてきた。知りたかった真意も結局は、伝えてもらえなかったが…。

 本来は社交的で話し好きな横綱が持つ苦悩を、会見の最後に尋ねた。「やっぱり、我慢我慢というかね。それがこの大きな結果につながりましたから。まあいずれ、そのときが来れば…また1つね。頑張りたいです」。会見することを受け入れ、打ち切ることなく話した。何かが変わってきた。そんな29分間だった。【今村健人】