琴奨菊が10年もの間、優勝を独占してきた外国出身力士を止めた。それを皮切りに、和製力士が続くことはできるのか-。現役力士たちに与えた影響はさまざまだ。

 同じ和製大関の2人は複雑な心境の中にも、発奮材料を見いだした。目の前で優勝を決められた豪栄道は「悔しいですけど、半面おめでとうとも言いたい。(自分も続くという気持ちは)そういう気持ちでやりたい」。最も期待をかけられてきた稀勢の里は「自分は間違ってないと信じて、自分を信じてやり続けること。次は自分という気持ちでやりたい。相手どうこうじゃない」と、言い聞かせるように雪辱を誓った。

 外国出身力士の優勝が始まったとき小中学生だった若手の反応は、もっと正直だ。新入幕の正代(24)は「僕だけじゃなくて、日本人力士はだいぶ、自信がつくと思う。自分も頑張らないと」と、郷土の先輩の快挙に刺激を受けた様子。幕内最年少の輝(21)も「うれしいし、自分もやらないと」と口をそろえた。

 一方で、10年前も幕内の土俵にいたベテラン安美錦は「また10年後に(和製力士Vが)出てくるんじゃない?」と皮肉った。そこには、当時を知るからこその根拠がある。00年名古屋場所で新入幕を果たし、37歳となった今でも幕内上位の常連。部屋ではモンゴル出身の2力士が番付を駆け上がる姿を目の当たりにしてきた。

 「俺が上がったころは、(横綱)曙さんとか貴乃花親方によく胸を出してもらった。魁皇関にも、よくかわいがられたよ。うちの横綱(日馬富士)だって朝青龍によくかわいがられてたけど、向かっていっていた。(今は)みんな嫌がって、すぐ痛い痛いって言う。照ノ富士だって、やることを目いっぱいやってるよ。痛くても簡単に休まない。気持ちが違うよ。名前は挙げないけど、強くなろうと思ってやってるのかな? って思う人もいる。刺激になったなら、やることやらないと」

 稽古場でも巡業先でも、体をいじめ抜く。その姿が見られなくなってしまったことに警鐘を鳴らした。

 この10年で35度優勝した横綱白鵬は琴奨菊を祝福した後、こうも言った。「ことわざもあるでしょ。『今日の敗北は、明日の勝利』ってね。それを目指したい」。発奮材料になったのは、日本出身力士だけではない。開かれた扉の先には、どんな未来が待っているのか。すべては、土俵の上で証明される。【桑原亮】(おわり)