大相撲名古屋場所は今日10日、愛知県体育館で初日を迎える。98年名古屋の3代目若乃花以来の日本人横綱に挑む大関稀勢の里(30=田子ノ浦)は9日、前日恒例の土俵祭りに出席。やり残しはないことを強調した。翌場所に“継続”された綱とりでは、成功した大乃国を最後に全員、6日目までに黒星を喫して失敗している。前半戦を無傷で乗り切ることが、悲願の初優勝と綱とりへの鍵となる。

 誰よりも早く、その場にいた。午前10時から始まった土俵祭りの30分も前に、稀勢の里は1人、いすに座っていた。目の前に広がる土俵を静かに見つめる。「あとはやるだけですね」。決戦に向けて意を決した。

 13勝を挙げた夏場所から持ち越しとなった綱とり。「継続」の難度は、ぐんと増す。過去、2場所以上連続で綱とりに挑んだ力士は、87年秋場所の大乃国を最後に全員、失敗している。貴ノ花(当時)や白鵬ですら超えられなかった壁。綱とりの重圧を、連続して受ける難しさが表れている。

 だが、八角理事長(元横綱北勝海)は「周りから言われると、どうしても意識すると思うが、誰もが通った道。上がったら、来場所の方が大変。気持ちの持ちようだ」との言い回しでハッパを掛けた。旭富士以降、継続場所で失敗した大関は全員、6日目までに黒星を喫し、ほとんどは序盤で崩れた。前半戦を無傷で乗り越えることが鍵となる。

 朝。土俵祭りの前に稀勢の里は、なす紺の締め込み姿で土俵に下りた。若い衆相手に立ち合いの確認をすること9度。続けて前日同様に9回、立ち合いを動画で撮影させた。感覚と、実際の姿とのすり合わせ。「自信を持ってやっている」と、持てる力を出せば負けない自負は高まった。

 「(綱とりは)内容を見ての話」としつつも「期待感はたくさんある」と理事長。その期待を、暑い名古屋で昇華させられるか。やり残しを問われて「体をいじめてきましたから」と答えた稀勢の里の4度目の挑戦が始まる。【今村健人】