大関稀勢の里(30=田子ノ浦)の4度目の綱とりは絶望的となった。2敗同士の直接対決で横綱日馬富士に一方的に敗れて、優勝争いから1歩後退した。自力こそないものの、まだ優勝の可能性は残しており、八角理事長(元横綱北勝海)は多くを語らなかったが、横綱審議委員会の守屋秀繁委員長は今場所での綱とりがなくなったと明言した。

 転がり落ちた土俵下でしばらく、立ち上がれなかった。稀勢の里は両手、両膝を床につけて、顔をゆがめた。重い1敗。残り2日で優勝争いから後退した。

 「クソー」。支度部屋に戻り、ため息とともに漏らした。発した言葉はそれだけ。両手、両足のテーピングを取ろうともしない。ぼうぜん自失であり、憔悴(しょうすい)。その姿は、風呂から上がった白鵬に眼光鋭く見つめられた。その視線すら気づかないまま、肩を落とし続けた。

 悲願の初優勝と綱とりに向けた日馬富士との直接対決は完敗だった。立ち合いで左を深く差され、自らの左は厳しく封じられた。横綱のあまりの低さに、背中を見つめるしかない体勢。苦し紛れに左上手を取りにいった。その瞬間を突かれて一方的に寄り倒された。

 もはや、綱とりは絶望的となった。八角理事長は「千秋楽が終わったときに考えればいい。まだ優勝できないわけじゃない」と言葉を濁したが、横審の守屋委員長は「平幕2人に負けて、今日も横綱が相手とはいえ一方的。相撲内容が悪すぎる」と、仮に優勝しても今場所の綱とりはないと明言した。「負けても熱戦やギリギリの攻防なら、推挙せざるを得ないかと思っていたが…」と残念がった。

 先代師匠の鳴戸親方(元横綱隆の里)と同じ名古屋で、と目指した綱の夢がはかなく消える。ただ、守屋委員長は「あと2つ勝てば来場所につながるかもしれない」とも言った。14日目は白鵬戦。負ければ継続すら難しくなる。心を切らすには、早い。【今村健人】