日本相撲協会は29日、秋場所(9月11日初日、東京・両国国技館)の新番付を発表した。新入幕の千代翔馬(25=九重)は、7月31日に急逝した入門時の師匠で元横綱千代の富士の先代九重親方が「一番ほめた関取」。千代の富士魂を受け継ぐ大横綱の“忘れ形見”が幕内の土俵で暴れる。

 千代翔馬は「日本の父」の言葉を思い出していた。「先代親方は『1ができないと2はできない』と言っていた。目標でも何でも、1ができないで、2や3はできないと」。だから目標を聞かれると「勝ち越しです」と答えた。現師匠の九重親方(元大関千代大海)から「小さいよ。10勝で三賞狙えるよ」とうながされても「一日一番…」と恐縮した。師の教えを貫いた。

 09年名古屋の初土俵以来、先代九重親方に「人生」を教わってきた。「何でも細かかったです。けがをすれば傷がどうなっているか気にしてくれた。相撲を見てLINEや日記のノートに書いてくれた。食事でも何の魚か、分からないと教えてくれた。相撲だけじゃない。どうやって生きていくかを教えてくれた」。死去後、先代の遺体の前でろうそくの火を消さないよう、関取衆で順番に起きた。感謝の念に堪えなかった。

 今もLINEのやりとりは全て保存し、日記も書き続ける。先代の現役時の取組も毎日、見ている。現親方は「師匠には珍しく一番よく褒めた関取。一番稽古するのは千代翔馬だと」と明かした。千代翔馬は言う。「『頑張れ』としか言われなかった。頑張ればいいことがあるんだといつも言われた」。その思いを忘れずに、幕内の土俵に立つ。【今村健人】

 ◆千代翔馬富士雄(ちよしょうま・ふじお)本名・ガンバータル・ムンクサイハン。1991年7月20日、モンゴル・ウランバートル生まれ。元横綱朝青龍の紹介で来日。高知・明徳義塾高を中退して、09年名古屋初土俵。父はモンゴル相撲の大関。183センチ。