横綱鶴竜(31=井筒)が、昨年秋以来7場所ぶり3度目の優勝を飾った。直前に2敗の日馬富士が敗れ、勝てば優勝が決定する結びの一番で豪栄道を上手出し投げで下した。3横綱がそろう場所で初の賜杯獲得。2年前の九州で10連勝発進しながら優勝を逸した勝負弱さや重度の腰痛を乗り越え、横綱の存在感を示した。

 絶妙だった。巻き替え返してきた豪栄道の出足を利用するように、鶴竜がしなやかに体を開いた。うまさが光る出し投げで、優勝を決めた。14日目の決定が初なら、3横綱そろった場所でも初めて。「最高です。うれしいです」。表情を変えず、喜びをかみしめた。

 悪夢を振り払った。2年前、同じ九州だった。10連勝で迎えた11日目に稀勢の里に敗れ、風邪もひき賜杯を白鵬に奪われた。今年も11日目に初黒星を喫した相手まで同じ展開。だが、そこからが違った。「今までは今まで。一番一番集中するだけ」。優勝後も無表情だったように、心は揺れなかった。「成長があったからこそ、こういう結果が出た」と静かにうなずいた。

 横綱16場所目で、確かにたくましくなった。名古屋で休場した原因の腰椎椎間板症は、当初全治2週間だった。だが、2カ月かかる重症で「くの字に骨が変形してた」という。曲がった骨を伸ばす特殊治療をしたが、秋場所出場は危ぶまれた。師匠の井筒親方(元関脇逆鉾)は悩み抜いたものの、鶴竜は「出ます」と強行出場。いきなり2連敗し窮地に追い込まれても、休まなかった。結局10勝し、最低限の責任を果たした。「あの苦しい場所で2桁勝って、精神的に大きくなった」と井筒親方。試練を乗り越え、歓喜へつなげた。

 今場所は風邪予防に加湿空気清浄器を持参。体重計にも毎日数回乗り、155キロのベスト体重に合わせた。冷たい物は飲まず、酒も焼酎お湯割りオンリーで、体調に気を使ってきた。昨年結婚したムンフザヤ夫人(25)との披露宴は、長女アニルランちゃん(1)の出産や自身のけがもあり、まだ催されていない。「来年あたりにする予定。奥さんのためだから」。家族を喜ばせるため、まだまだ強くなる。【木村有三】

 ◆14年九州場所の鶴竜 初日から10連勝で単独首位も11日目に稀勢の里に押し出しで敗れ初黒星。翌12日目の豪栄道戦は立ち合いで右に変化し勝利も「そんな相撲でええんか」などとヤジを浴びる。13日目は風邪でせきが止まらず熱も出て朝稽古を休み、日馬富士に敗れて2敗目。優勝争いのトップを1敗の白鵬に譲る。千秋楽は白鵬に敗れ3敗目を喫し、優勝を逃した。