中日8日目で、大関稀勢の里(30=田子ノ浦)が昨年春場所以来、自身2度目の単独首位に立った。平幕隠岐の海を土俵際で大逆転の突き落とし。自身6度目の全勝ターンを決めた。

 音だけを聞いていた。髪を結い直していた支度部屋で、稀勢の里は目をつむって。館内から響く大歓声、白鵬の黒星を絶叫で伝えるテレビのアナウンサーの声も耳をつんざく。だが「また明日、しっかり集中してやります。集中して」。昨年春場所以来となる単独首位での折り返しにも、表情は微動だにしなかった。

 追い風。その結果は起死回生の相撲が引き寄せた。踏み込みが甘く、隠岐の海にもろ差しを許す。苦しい体勢のまま後ずさりし、館内に一瞬、悲鳴が響いた。

 だが、あきらめない。布石は足の送り方だった。後ろに下がらず、丸い土俵を時計回りに1周する。その間に右手で首をひねりながら、左手をはず(脇)にあてがった。押しつぶすような突き落とし。土壇場で、悲鳴を大歓声へと変えた。土俵際は体が自然と反応したかと問われると「そうだね」と大きく息をついた。

 新年が明けた稽古場で、新しい動作が1つあった。土俵で1人、仕切って前に出た後、腕を前に出したまま右に左に俵を伝って半周する。左右のバランスを取りながら土俵を丸く使う動きだった。「いろんなことが想定できるから」。土壇場の攻めながらの送り足は、稽古のたまものだった。

 初場所の中日は過去12場所でたった3勝。幕内最初の05年から7連敗し、14、16年も負けていた。鬼門を突破した今場所は明確な綱とり場所ではないが、ハイレベルな優勝ならば昇進の可能性もある。「今日は今日。また明日です」。これは今場所の決まり文句。中日の単独首位は初めてではない。1年前の経験が、どう生きるか。【今村健人】

 ◆稀勢の里の8日目での単独首位 昨年春場所以来2度目。当時は8日目に勢と全勝対決。左のおっつけから左四つとなり、寄り切った。10日目まで全勝を守ったが、11日目に1敗の白鵬に寄り倒されて豪栄道と3人に並ばれると、12日目も日馬富士に敗れ連敗。結局13勝2敗で、14勝で優勝した白鵬に1差及ばず。