[ 2014年6月16日7時45分

 紙面から ]<W杯:日本1-2コートジボワール>◇1次リーグC組◇14日◇レシフェ

 日本代表FW香川真司(25=マンチェスターU)のW杯デビュー戦は屈辱にまみれた。バックアップメンバーだった前回南アフリカ大会から4年。日本の攻撃を担う主軸選手として10番を託されて臨んだ初戦で、いつもの姿はなかった。後半41分に退くまで放ったシュートは0本。チャンスをつくれないまま敗れた。

 再び雨が降ってきた。日本が敗北の涙雨に打たれたピッチに、香川はいなかった。ただ、ベンチで見届けるしかなかった。逆転負けで落とした初戦。攻撃を担うはずの香川は躍動することがないまま終えた。開きたくない重たい口を、10番の責任感が開かせた。

 「攻撃で、攻めの姿勢を見せられなかった。取った後、自分たちのミスで自滅していた。トライできなかったというか、しなかった。悔しい。できなかったというのもあるし、しようとしなかったというのもある。明らかに慎重になった」

 香川はチャンスの場にいなかった。前半2分、大迫にスルーパス。ゴールに向かったプレーはこの時だけ。ボールを受けようにも、サイドでの守備に追われて、攻撃に移れない。「距離が遠かった。相手のサイドバックが上がってきて、なかなか前へ行けなかった」。大事にしてきた距離感が遠すぎて、ボールをもらえない。当然、シュートも0本に終わった。米国での直前合宿ではコスタリカ、ザンビア相手に連続ゴールを決めていたが、夢だったW杯本番で影を潜め、後半41分に退いた。

 あの光景を忘れたことはない。4年前の南アフリカ大会。23人のメンバーから外れ、バックアップメンバーとして同行し、日本は1次リーグ突破を決めた。歓喜の輪を見つめ「素直に喜ぶことはできなかった」。顔は笑ったが、心は笑っていなかった。W杯は夢の舞台。小学3年時、日本が初出場した98年フランス大会を見て、世界を知った。ブラジル代表に心を奪われて「ブラジルに行きたい」と言った。4年前逃したW杯のピッチに立ち「やっとこの時がきた」と心で思った。勝利に沸く歓喜の輪を、このブラジルで、自分の力でつくるはずだった。

 「このために調整してきた。それでできなかった。悔しくて、言葉にならない。でもまだ2試合ある。これで気づくのは遅いかもしれないけど。ボールを持って主導権を握るサッカーができないと、日本は攻められない」

 少し涙ぐんで、グッとこらえているようだった。【栗田成芳】