あの人の教えがあったからこそ今がある。北海道にゆかりある著名人たちの、転機となった師との出会いや言葉に焦点をあてた「私の恩師」。元モーニング娘。安倍なつみ(34)が「先生」と呼び、その教えを歌や舞台で実践している。ボイストレーナーの楊淑美(ようしゅくび)さん。よき理解者であり、指導者であり、芸能界の先輩だ。高校卒業後、地元北海道から歌手を目指して上京した。多忙を極めたグループ時代から、楊さんにかけられた言葉が、精神的に迷ったときの心の支えになった。出会いから15年。今でも指導を仰いでいる。

 楊先生との出会いは00年。モーニング娘。で初めてミュージカルをしたときです。その後、何作か先生についてもらって、いろいろ教わりました。ソロになってからも個人レッスンを受けました。これまでたくさんのボイストレーナーや歌唱指導の先生について教わりましたが、先生の発声方法は自分自身に合うので、いまだに教わっています。

 実は先生も実際にブロードウェーのミュージカルのステージに立ちました。宝塚に在籍し、みんなでやることの大変さや苦労を体験している方なので、グループ時代のときから精神的な悩みなど、私の相談を「なっち、大丈夫」みたいな感じで聞いてもらっていました。

 その中で、心のバランスがちゃんとしていないと声にも影響すると教わりました。その当時のスタッフやメンバーには話せないことを聞いてくれたり、自分にプラスになることを教えてくれます。私は恩師と思っている方が他にもいますが、その中でもいまだにプライベートな時間にレッスンに行ったり、いろいろ教わっています。

 モーニング娘。のときは自分の時間がありませんでした。休みといっても美容院に行ったりとか、のどの病院に行ったりとか。実家が近いと1日でも帰ったりする子もいましたけど、私はすぐに北海道に帰ったり、家族に会える環境ではなかったので、とにかくモーニング娘。としての安倍なつみでいる時間がほとんど。つらかったと言えばそれまでだけど、自分がやりたくて、それを望んで東京に出て来て、戦っていた感じがありますね。だから、弱音を吐けなかったし、吐きたくなかった。

 先生に相談に乗ってもらったことは、外から見られているイメージというものが大きくなってしまったとき。息抜きやリラックスしたいのにできない。そういう部分で先生は分かってくれる理解者で、自分の経験談を交えながら「私はこうして来たよ」と、伝えてくれます。

 指導を受けて学んだことは、自分の芯を持つことですね。どんなところに立ってもぶれない強さというのを持つ。状況やステージが、どうなっていても、自分というものを持っていれば大丈夫という根本的なこと。その瞬間に最高のパフォーマンスを届けたいと常に思っているので、それが一番大事だなと思いますし、先生がそれを教えてくれました。【取材・構成 沼倉陽一】

 ボイストレーナーの楊淑美さん とにかくかわいくて素直で、よくメンバーのみんなを励ましていた印象です。いつも現場では笑顔で「若いのに本当に偉いな」と。ボイストレーニングの際は、素直な心を持つ人は、人の意見を受け入れるのが早く、何でもやってみようとしてくれるので、非常に教えやすいし、上達も早い。

 新しい発見があるといつも「あっ! 本当! こうだ!」と、うれしそうな顔をしてくれるのが、私もうれしかったです。教えていているはずなのに、人間的にも教わることがたくさんありますね。

 いつから個人的な悩みを聞いたのかは覚えていません。よくミュージカルの稽古の時にどんな映画が面白かったなどと話しているうちに、すごく意気投合して、いつの間にか個人的な話もするようになったのだと思います。

 舞台や歌で活躍するなっちには、とにかく何事もいつものなっちらしく誠実にこつこつといろんなことを積み重ねてすてきな歌い手、そして演じ手になってもらいたいです。かわいい役から大人の女性まで演じられるなっち、いつまでも応援し続けてます。

 ◆安倍(あべ)なつみ 1981年(昭56)8月10日、北海道生まれ。97年にテレビ東京「ASAYAN」のシャ乱Qロックボーカリストオーディションの落選組5人でモーニング娘。を結成。98年1月「モーニングコーヒー」でデビュー。03年8月「22歳の私」でソロデビュー。04年にモーニング娘。卒業。その後、音楽活動を中心に舞台、ミュージカルなど幅広く活躍。09年に日本野菜ソムリエ協会認定「ジュニア野菜ソムリエ」、10年に同「ジュニア食育マイスター」の資格を取得。6月17日にセルフカバー4曲を加えたアルバム「Dreams」をリリース。