【第36回】
降圧薬の前に精神安定剤
本態性高血圧(下)
本態性高血圧の患者には、精神的ストレスが原因と思われるケースがかなり見られる。アパレルメーカーに勤めるB男さん(35)もストレスが原因で高血圧に苦しめられた1人。新店舗の開店に伴って店長に抜てきされたB男さんは張り切りすぎて、すべてが空回り。部下とギクシャクし、成績は伸びない。結局、高血圧によるめまいを引き起こして内科を受診。その内科医の的確な診断で、心療内科へ紹介された。
B男さんを診察した九段坂病院(東京都千代田区九段南)心療内科の山岡昌之部長は言う。「B男さんの場合も、日本人の高血圧の90%を占める本態性高血圧でした。いわゆる原因不明の高血圧です。特にストレスの影響が強いB男さんのような場合には、降圧薬を始める前に、精神安定剤を投与して経過を見ます。降圧薬を使うと、かえって効きすぎて夜間就寝中に低血圧に陥る危険性があるのです」。
心療内科では、それまで降圧薬を使っていた人には新たな降圧薬を出さないで、それまで服用していた降圧薬を飲み続けてもらい、必要に応じて精神安定剤の投与の上、面接やカウンセリングに重点が置かれる。
「生活面の問題点をチェックし、それでストレスの要因や食習慣、喫煙、塩分の過剰摂取、その他の生活習慣のゆがみに患者さんが気付くと、それだけで血圧が下がったり、今までの降圧薬が効き出すこともあります」。B男さんの場合、面接中に「部下があなたの若いころと同じようにできないとイライラするんですね」と指摘された。ストレスが原因の高血圧では、ものごとがきちんとしてないと気がすまない完全主義者、完ぺきタイプに多い。
その面接での指摘以降、B男さんは部下との接し方を変えるように心がけていった。部下の接客態度をしかるのではなく、閉店後に接客マナー講義などを開き、明るく前向きに。家庭に戻ったら、そのときは子供と遊ぶようにした。B男さんは、少しずつではあるが気持ちの切り替えができるようになってきたのだった。心療内科で3カ月、そんな短期間でB男さんの血圧は正常値に戻り、急なめまいともおさらばできた。
【ジャーナリスト 松井宏夫】
|