日本の19時35分キックオフは、欧州の昼の12時35分だ。今日はチームが午前、午後の2部練習(よりによってこの日に!)があり、12時半から14時15分までが、テレビの前に座っていられる時間だ。ネットで生放送を見られるサイトを探した。テレビを見ながらこんなにドキドキしたのは生まれて初めてかもしれない。

 後半25分まで見て、泣く泣くトレーニングセンターに戻った。14時20分から先日のリーグ戦のビデオ反省ミーティング。もちろん監督のオランダ語はわからないが、今まで以上に上の空だった。全く監督や選手の声が耳に入ってこない。チームには申し訳ないが、今日だけは仕方がない。腕時計を見ながら1-0のままか、同点に追いつかれていないか、ひっくり返されていたらどうしよう、もしかしたら2点目が入っているかもしれない、いや楽観視はやめておこう…。

 浅野のゴールの時は昔を思い出した。リオ五輪チームの立ち上げで、U-19(19歳以下)やU-20の監督をさせてもらった時、当時広島でなかなか出番のない琢磨(浅野)は、代表にいつも来てくれていた。負けん気が強く、外国人と戦ってケンカができる選手。圧倒的なスピードもあるが、特に得点感覚が優れていた。

 井手口は、J3にU-22のJ選抜チームを作って参加していた時に、かなりの試合に来てくれた。当時「そんなのやっても仕方ない」と言われたが、2年間やり続け、翌年からU-23のセカンドチームがJ3に参加するようになるなど、強化部会やJリーグの人たちと議論に議論を重ね、さまざまな取り組みをした甲斐が、この試合の彼らの活躍で報われたと思う。

 この試合で何がよかったか。いろいろな視点があるが、私はまちがいなく、前向きの守備の貫徹だと思う。昨年のオーストラリア戦ではブロックを作り、相手にボールを持たせたが、今回はホームということもあり、ボールへのアタック、プレッシャーが素晴らしかった。そこがストロングな選手を起用したこともあるが、途中で入った、原口、岡崎、久保もまるでヤリのように、ロスタイムまで次から次へと相手DF陣にプレスをかけていた。

 オーストラリアは、ポゼッションをすることでリズムをつかむトライをしている。元々フィジカルにたけている選手たちだが、パワーや高さだけに頼らず、しっかりボールをつないでフットボールをやることにトライしていることは、ここ何年か、どのカテゴリーの代表でも見られていた。ただ、今回の日本は、彼らに自由を与えないことでリズムを奪うことにトライし、成功した。

 下がらない守備は、就任当初からバヒド(ハリルホジッチ)が言い続けていた。屈強なオーストラリア選手に対しても体をぶつけにいき、デュエル(球際の争い)で負けない。ここを戦うことで、相手を気持ちよくプレーをさせない。戦術的に戦う、若い選手を信じて使う、経験豊富な選手にも純粋な競争を求めるがリスペクトも忘れない。「FWは常に相手DFの裏を取れ。現代サッカーでは中盤の選手も得点を取れるようにならなきゃいけない。積極的にシュートを打て」。バヒドが攻撃面で言い続けて来たことが、ピッチ上で表されて、今日の2ゴールにつながった。

 まさに監督がやりたかったサッカーがこの大一番で全部出たと思う。どの選手も監督の指示通りにしかプレーしていない、とは言えない。選手たちはあくまでも自己判断で、能動的にプレーをした。だから躍動感が見てる人に伝わるのだ。それがバヒドの狙いでもある。

 監督は難しい性格だが、愚直で純粋。スタッフも選手もついていくのは大変だが、表面上のコミュニケーションだけで、本質を見誤って欲しくない。これからW杯本大会に向けて、この監督の腕の見せどころが出て来ると信じている。分析上、格上のチームでも強気に戦い、戦術的にプレーし、相手がどこの国だろうが、まずは勝利を信じる。勝つための引き出しを常に複数用意し、戦うことをベースに選手たちの良さを引きだす。

 W杯出場は、もはや義務であり、ノルマであり、だからこそ出場し続けるというのは大きなプレッシャーである。協会を離れても、ベルギーに来ても、いつもそのプレッシャーを感じていた。みんなを信じることしかできないが、だからこそずっとこの日を待っていた。

 午後の練習から戻り、ネットでもう1度最後の瞬間を見た。選手たちの頑張って戦う姿や、勝った瞬間のバヒドの涙を見たら、こっちもなんか泣けてきた。

(霜田正浩=ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボールの真実」)