試合終了の笛に歓喜の声と悲鳴が入り交じった。15年シーズンのJ1年間王者を決めるチャンピオンシップ(CS)決勝。第1戦は2日、G大阪のホーム万博記念競技場で行われた。結果はご存じの通り、G大阪が2-1でリードしていた後半ロスタイムに広島が2得点。奇跡的な逆転勝ちを収めた。

 試合を分けたのは後半41分だった。G大阪のDFオ・ジェソク(25)が両手で広島DF清水を突き飛ばしてしまい一発退場を食らった。10人となったG大阪は、1点のリードを守りきれずロスタイム「5分」の間に2失点した。

 試合後の取材エリア。オ・ジェソクは左手で口元を覆い、うつむきながら無言で通り過ぎた。目は真っ赤に充血していた。「自分の責任だ」と物語るように25歳DFの背中から後悔、ざんげ、自分への怒りが漂っていた。しかし、そんな彼をどん底から少しでも救おうとするチームメートの言葉があった。

 時を運命の後半41分に戻します。審判からレッドカードが提示され、両チームの選手が集まってきた。ぼうぜんとするオ・ジェソクに1人の男が駆け寄った。G大阪DF丹羽大輝(29)だった。オ・ジェソクの肩を抱いて耳元で懸命に語りかけた。

 「優勝したら、クラブW杯がある。やから、しっかりコンディション整えとけよ。準備しとけ」

 丹羽は、CS準決勝浦和戦の延長後半にあわやオウンゴールとなるバックパスを放っていた。しかし、そこから一気にカウンターを仕掛け、最後はDF藤春が決めて勝ち越した。見事な連係で今回の決勝へと駒を進めた。「俺も(準決勝でのミスを)チームメートに助けられた。ジェソクは必死に戦っていた。ジェソクのためにも優勝したい」。紛れもない丹羽の本音だろう。

 アウェーゴール3発を浴び、現状は厳しい。それでも丹羽は「まだ前半が終わっただけ。2日間のハーフタイムを終えて、後半に臨む。ここからいかに優勝できるかを考えていきたい」。ホームアンドアウェー、180分間の戦い。サッカーは試合終了の笛が鳴るまで何が起こるか分からない、と強い気持ちを感じた。そして、私はふとあの試合を思い出した。

 記憶に新しい9月16日のACL準々決勝第2戦の全北(韓国)戦。このままでは敗退が決まる1-1の後半31分だった。G大阪はMF倉田秋(27)の強烈ミドル弾で勝ち越した。しかし、まさかの後半44分に追い付かれた。同点なら敗退-。スタンドの誰もが祈るように見守っていた。そして、後半ロスタイム。途中出場のDF米倉恒貴(27)が勝ち越し弾を決めた。万博が起こした奇跡だった。

 当たり前のことだが、残り1分、残り1秒まで試合はどうなるか分からない。ひたすら勝利を信じ続けた者だけが奇跡を起こす資格を持つことは確かだ。泣いても笑っても今季のJ1は残り1試合。そして、まだ90分もある。広島か、G大阪かどちらが頂点に立つのか。試合終了の笛が鳴る瞬間までしっかりと見届けたい。【小杉舞】

 

 ◆小杉舞(こすぎ・まい)1990年(平2)6月21日、奈良市生まれ。大阪教育大を経て14年、大阪本社に入社。1年目の同年11月からサッカー担当。今季の担当はG大阪など西日本のクラブ。夏に日焼けし過ぎたせいでいまだに顔も腕も真っ黒。