J2札幌はリーグ第26節を終え、勝ち点56で首位を走っている。7月31日山口戦で3連勝。2位松本、3位C大阪が引き分けに終わったため、2位と勝ち点5、3位と8差と、やや抜け出した。1試合未消化ということもあり、優位に立っている。

 浦和時代の00年にJ2からJ1昇格を経験しているMF小野は、好調時に大事な心構えについて、こう言っている。「こういうときは、試合に出られない選手がマイナスの方向にいってしまうこともある。そういう選手が1人もいない状態に持って行けるようにしたい」。小野自身も今季、先発に定着できているわけではない。だからこそ、この言葉に深みを感じた。

 チームを勢いづけるために、自分に今、何が出来るか。6月から約1カ月半、股関節痛で離脱し、復帰戦となった7月25日岐阜戦で11試合ぶりに出場した。後半27分からの途中出場。3-0と試合は決した状況だったが、天才は懸命に見せ場をつくった。

 3分後の同30分、左サイドから、ポーンとヒールキックでゴール前のMF中原につないだ。中原の右足ミドルは右ポストに阻まれたが、そのこぼれ球をMFジュリーニョが押し込んで4点目につながった。小野らしいノールックパスからの得点シーンに、サポーターも大歓声で応えた。

 31日山口戦は後半27分、2-1からの途中出場だった。29度を超える酷暑の中でのアウェー戦は、1点リードを守りながら、少ないチャンスで3点目を取るという難しいノルマが課されていた。同じく途中出場のFW内村と前線から必死でボールを追ったが、チーム全体の運動量が落ち、引き気味だった影響もあり、好機をつくるのは難しい状況だった。

 だが、今度はセットプレーで魅了した。同40分、絶妙な左CKをDF増川の頭に合わせた。増川のヘディングシュートは惜しくもクロスバーに阻まれたが、短時間で、しっかり爪痕を残した。「チームとして最後まで勝つという気持ちを持ってやれたし、価値ある勝ち点3だ思う。ただ、自分は何も出来なかったけど」。現実的に点にはつながらず、極めて謙虚だったが、復帰後2戦計36分で2度の決定機を創出した。

 さらに、言葉の裏に、プロとして出場時間が短かろうが状況が厳しかろうが、1試合で必ず何かを起こさなきゃいけないという、秘めた意地を感じた。

 前回J1昇格した11年は、ゴン中山がいた。10年末の両膝手術の影響でリーグ戦出場機会はなかったが、膝の激痛に耐えながらボールを追う姿は、全員の士気を高め、最終節での劇的な滑り込み昇格につながった。ベテランが背中でけん引する姿勢は、チームの絆を固くする力になる。

 今季は小野がいる。昇格へのキーワードと掲げる「一体感」を率先して体現。「みんなが1つになってやること」と、限られた時間の中で見せ場をつくり、自身が得点に絡めなくとも、守備に走り、チームとして勝つために必要なプレーを表現し続けている。

 リーグ前半戦は負傷もあり出場5試合と苦しんだが、J1昇格をかけた正念場は9、10、11月。今は9戦負けなしと調子が良いが、追い込みをかける終盤、必ず勢いが止まるときが来る。今は脇役に甘んじているが、ラストスパートへ力が欲しいその時にこそ、天才ならではの、まとめる力や、ピンチを打開する工夫、アイデアが、大きなアドバンテージとなって効果を発揮するに違いない。


 ◆永野高輔(ながの・たかすけ)1973年(昭48)7月24日、茨城県水戸市生まれ。両親が指導者だった影響で小5からフェンシングを始め競技歴15年。早大フェンシング部で一度、現役引退も、00年に再起してサラリーマン3年目の27歳で富山国体出場。09年から札幌担当。