勝者と敗者-。

 当然のことながら、脚光を浴びるのは勝者である。12月4日にあったJ1昇格プレーオフ(PO)決勝。3年ぶりにJ1復帰を果たしたC大阪の選手は、雨に打たれながら、いつまでもグラウンドで勝利の余韻に浸っていた。片隅で、岡山の選手はその光景を目に焼き付けるかのように、ジッと見つめていた。屈辱は、いつの日か、成功するための糧になる。それを知っているからこそ、目を背けることはなかった。

 昨年12月6日のPO決勝。福岡とC大阪が昇格を争った試合を、岡山の長沢徹監督(48)はスタンドで観戦していた。1-1の引き分け。リーグ順位で上回っていた福岡がJ1切符を獲得し、あと1歩で昇格を逃したC大阪の選手は涙した。その光景を見ていたから、長沢監督は、C大阪の今季にかける執念のようなものを感じ取っていたに違いない。

 C大阪に敗れた試合後の会見。長沢監督は言った。

 「まずはセレッソさんにおめでとうと言いたい。昨年、長居で(C大阪が)福岡に敗れる姿を見ていました。我々は無念ではありますが、この無念こそが、次にどこかで輝くための1歩になる。これも歴史につながっていくだろうし、こういう経験は無駄ではない」

 グッと歯を食いしばりながら話す姿は、涙をこらえているようでもあった。

 年齢を重ねた今でも、戦う意欲は少しも衰えてはいない元日本代表の加地に岩政。J1では出場機会が少なくても、ここからはい上がってやろうというギラギラしたものを感じさせる矢島や豊川ら若手。それに無名の選手を鍛え上げて、クラブ史上初めてPOまでたどり着いた。準決勝松本戦(11月27日)は後半ロスタイムの劇的ゴールで勝ち上がり、岡山の街は、初のJ1クラブ誕生への夢を見ただろう。

 夢をかなえるのは簡単ではない。だからこそ、夢がかなった時のうれしさは、言葉で言い表すことができないほど、大きいのである。

 「アイツらの戦う魂を評価してあげたい。胸を張って、岡山に帰ります」

 戦いを終えた長沢監督の言葉の端々から、クラブと選手への愛情のようなものを感じた。派手さはない。だが、地方クラブがゆえの素朴さが、魅力なのだろう。来季こそ-。岡山の快進撃を楽しみにしている。


 ◆益子浩一(ましこ・こういち)1975年(昭50)4月18日、茨城県日立市生まれ。00年大阪本社入社。04年からサッカー担当。故郷茨城のJ2水戸が、POに出場する日が待ち遠しい。