Jリーガーになれば、故郷に錦を飾りたいと思うのは誰でも同じだろう。今季からJリーグ参入を果たしたJ3アスルクラロ沼津MF前沢甲気(23)も、地元静岡の地で新たな挑戦に挑んでいる。昨年まではJFLのソニー仙台に所属。引退後も収入が保証される企業チームでプレーしていた。それでも「もっと上を目指したかった」と、移籍を決断。安定を捨ててJチームに加入する道を選んだ。

 数年前にも、そんな「熱い決断」に触れた時があった。前沢が清水商(現清水桜が丘)で主将を務めていた3年、私が高校サッカー担当として全国高校選手権の県予選を取材した時た。3年間の全てを注ぐ大会で、前沢は2次リーグで右足首を捻挫。全治4~5週間と診断された。同試合から決勝までの“猶予”は約3週間。体力や試合勘を取り戻すまでの時間を考慮すれば、例えチームが勝ち進んだとしても大一番への出場は絶望的だった。

 チームが決勝に進むと、当然のように強行出場した。後に「歩くのも痛いぐらいだった」と、明かした状態でゴールまで記録した。結果は静岡学園に1-3で完敗だったが、主将として足を引きずりながらボールを追う姿に、鬼監督と称された大滝雅良監督(65)も「彼はチームのために戦える子でした。主将らしい主将でしたね」と、目を細めていたことを今でも鮮明に覚えている。

 卒業後に進んだ専大では、関東1部リーグ4連覇を達成。4年時にはMVPにも選出されたが、プロ入りはかなわなかった。ここまでは、遠回りをしたかも知れない。ただ、今年で24歳。Jリーガーとして、一花もふた花も咲かせる時間はまだある。今月25日に行われたJ3第3節の藤枝戦では、途中出場から移籍後初得点をマークするなど好スタートも切った。故郷の静岡で、もう1度輝く姿を期待してやまない。

 ◆前田和哉(まえだ・かずや)1982年(昭57)8月16日、静岡市生まれ。小2からサッカーを始め、高校は清水商(現清水桜が丘)に所属。10年入社。昨年までは高校サッカーを取材し、今年から磐田担当。