一足先にサッカーのアジア大会が始まった。東京五輪世代のU-21日本代表を率いるのは日本代表森保一兼任監督(49)。東京五輪世代にとってもA代表へ絶好のアピールの機会となる。今、東京五輪世代で一番A代表に近いのは? 今大会は招集外だがオランダリーグ2年目のフローニンゲンMF堂安律(20)ではないだろうか。

 堂安は昨夏にG大阪からフローニンゲンへ移籍。海外初挑戦だった昨季はリーグ戦9得点の活躍でサポーターが選出する年間MVPにも選ばれた。もともと人なつこく明るい性格。本人も海外への適性に自信はあったが、やはりシーズン最初は苦労した。

 「やっぱり日本人だからか、最初は下に見られていたところがあった。パスも出てこなかったり、ミスしたら俺だけが怒られたり。点を取って認められたいと思っていたけど、パスが出てこないから。積極的に話しかけたりもしたけど…。なかなかどうしたらいいか分からなかった」

 そんな状況が一変したのは、試合中のプレーでもゴールでもなかった。何げない練習中の“ケンカ”。実戦形式を行っている時、チームメートが堂安に「めっちゃ厳しく削りに来た」という。

 「オランダの練習って毎日ケンカ。削られたらやり返したり、言い返したりする。もちろん練習が終われば何事もなかったような感じ。それを見てたから、俺も削られた時に怒ってみた」

 チームメートに詰めより、学んだばかりの英語を使って猛抗議。相手は少し驚いたような表情だった。この行動から周囲の見る目が変わっていった。

 「俺がここに本気でサッカーをしに来たと分かってくれたみたい。監督も含めて」

 それまでミスをすれば、厳しかったファブレ前監督も堂安を認め始めた。同監督の思いを明確に感じ取れた出来事がある。ある日、監督室へ呼ばれた堂安は机に数冊、日本語の本が並べられてあるのを見た。するとファブレ前監督は「律、私も日本語を覚えたい。右、左、前、後ろは日本語で何て言う?」と聞いてきたという。堂安は「結局試合中は英語で指示されるけど(笑い)、監督の思いがうれしかった。何とか応えたいと思った」。自らの力で仲間の信頼を得て、道を切り開き、飛躍の年とした。

 オランダ2年目の今季。W杯ロシア大会のメンバーから外れた瞬間から、次の目標は定まった。

 「今の目標は(19年1月の)アジア杯。9月、10月、11月でA代表に選ばれたらいいですね。そのためにはフローニンゲンで頑張らないといけない。1月が楽しみ」

 目の前の目標に対して真摯(しんし)に取り組み、着実にステップアップするタイプ。東京五輪、4年後のW杯カタール大会の活躍も期待されるが、まずは来年1月のアジア杯で力を必要とされる存在になることを目指す。今季も開幕戦のフィテッセ戦でゴールを挙げ、調子の良さを伺わせた。「東京五輪世代のエース」から「日本のエース」になるまで。今後もその過程に注目していきたい。【小杉舞】


 ◆小杉舞(こすぎ・まい)1990年(平2)6月21日、奈良市生まれ。大阪教育大を卒業し、14年に大阪本社に入社。1年目の同11月から西日本サッカー担当。担当はG大阪や神戸、広島、名古屋、J2京都など。