浦和MF柏木陽介(28)が、堅守の大宮から“カウント3”で決勝点を奪った。前半44分。敵陣で相手からボールを奪うと、ダイレクトで前方のMF武藤へ。そのままゴール前に突進すると、武藤と相手DFとの競り合いからこぼれたボールを、右足ダイレクトでゴールにたたき込んだ。

 この間わずか3秒。早い攻守の切り替えから、出足よくボールを再奪取して攻勢に回り、相手が体勢を整える間もなくフィニッシュにもっていった。この「詰め」の良さは、柏木が長年憧れ続け、4日前についに対面を果たしたスターの姿にも重なった。

 4日夜。柏木は同僚の武藤とともに、都内の焼き肉店に入った。同席していたのは、プロレスラー武藤敬司。浦和の武藤が武藤つながりで親交を深め、ゴール後のLOVEポーズ使用も公認してもらっていた。

 しかし、この流れに柏木は、ずっと異論を唱えていた。「オレの方が、ずっとファンやったんやって」。子供の頃からプロレスファン。新日本プロレスの姫路大会で、花道のレスラーに触ろうと近づいたところ、付き人時代の中西学に引き剥がされたこともある。

 その柏木少年が、最も好きだったレスラーが、武藤敬司だった。「戦い方が華やかやん。ああやって大歓声を浴びたら、どんなに気持ちいいやろうって、憧れてました」と振り返る。

 「武藤会」に合流する形で、プロレスラー武藤と初めて対面した柏木は「すてきやった」とため息がちに話した。記念写真をアップしたSNSの記事には「#ドラゴンスクリュー」と添え、今も変わらぬ武藤愛を強調した。

 武藤敬司の「シャイニング・ウィザード」は、相手にダメージを与えてリングにヒザをつかせ、間髪入れずに飛びヒザ蹴りを決める。ボール奪取から畳み掛けるようにシュートを放った柏木の得点は、武藤の必殺技を思わせるほど、一気呵成(かせい)のラッシュだった。

 ゴール後、チームメートはシュートを決めた右足を磨くパフォーマンスをしようと、右ひざを立てて柏木を待ち構えた。武藤敬司ファンの柏木からすれば、シャイニング・ウィザードを決める格好のチャンスでもあった。司令塔がかろうじて自重? したことは、周囲にとっては幸運だった。