松本山雅FCを率いて7年目。反町康治監督(54)の体が5度、宙を舞った。サポーターからは「反町、反町、男前!」の声が響く。

「監督は基本的に前に出るんじゃなくて、後ろから支えるものだと思っている。自分はあまり前に出たくない」というのが信条だが、選手らに担ぎ出されてシャーレを掲げた。サポーターの前では「約束」だった踊りを披露してみせた。記者会見でも拍手で迎えられた。「長らく会見をやっていますけど、拍手で迎えられたのは初めて」。

全て、照れくさそうだった。

本当ならば、勝って決めたかっただろう。だが0-0は「我々の今季を象徴するようなゲームだった」。全42試合で3試合連続、今季22度目の無失点試合。今季を象徴する「堅守」で、J2初優勝とJ1昇格をもぎ取った。

ほかの会場をにらみながらの試合だった。優勝や自動昇格圏内の可能性がある大分トリニータ、FC町田ゼルビア、横浜FC。いずれもスコアが動いていた。ただ、松本には1つ、運が向いていた。それは前半39分にMFセルジーニョが負傷交代した出来事だった。

本来であれば、攻撃の要の退場は痛手。ただ「時間を取ってくれたので、ほかの会場がうちより少し早かった。最終的にはそれが大きかった。モンテディオ山形が(大分からロスタイムに同点)ゴールを決めたのも、我々が終わる前に聞くことができた。ほかの試合が終わったことは耳に入っていたので、シナリオ的には良かった」。他会場をにらみ、最後は引き分け狙いで終えることもできた。そのセルジーニョも、試合後は反町監督と肩を組んで踊ったほど。「けがも、踊っているくらいだから大丈夫。だったら、試合をやれっちゅうに。そういう意味ではいい終わり方だった」と笑わせた。

来季は4年ぶりにJ1で戦う。反町監督は「本来であれば監督が長く続けるのは良くない。J1で16位に終わったときに、本来であれば退くべきかなと自問自答しているところがあった」とも明かした。

それでも、サポーターから贈られる温かな情や熱意を失いたくない。その一心でやってきた。「愛着がある」とも言った。だから「基本的には来年もやろうかなと思っています。会社とも話さないといけないが、続けてやる腹づもり」と続投する意思を明かした。

サポーターへのあいさつでは、好きな言葉を引用して決意を述べた。「来年は日本のトップリーグでやることになります。前回トップリーグで悔しい思いをしたのを皆さん、覚えていると思います。来年はその悔しさを元に頑張っていきたい。日本サッカー界の恩師、デットマール・クラマーさんは『試合終了の笛は、次の試合開始の笛だ』という言葉を残しています。次のJ1開幕戦は2月26日。2月26日に向けて頑張らなければいけません」。

松本は、もう新参者ではない。J1に昇格するだけで浮かれていた4年前の思いはまるでない。「J2での年数を無にしない」。厳しさは承知の上で、J1の舞台に上がる。