<大分ナビスコ杯V「地方から頂点へ」:(上)>

 大分が、創設15年目でJ1初タイトルを獲得した。1年前、降格危機に立たされていたチームは、どうして生まれ変わったのか。そして、これからもどう成長していくのか。「地方から頂点へ」と題して、2回にわたって検証する。

 昨年7月、新潟から期限付き移籍で加入したMF鈴木慎吾(30)は心の中でつぶやいた。シーズン前半を自動降格圏の17位でターン。後半戦の巻き返しに向け、大分のフロントは緊急補強を断行した。その残留請負人の使命を背負って乗り込んだが、高鳴る自分の気持ちとは違う空気を感じとった。「本当に勝つ気があるのか」。J2降格が背後に迫っているとは思えない光景が目の前にあった。

 あるとき、メンバー外の若手2選手が練習に遅刻。加入して間もない鈴木は、2人をドクター室につれだし、厳しい言葉をぶつけた。「だから、試合に出られないんだよ」。窮地を乗り越えていかなければならないときでも、チームは一体になっていなかった。そのことが腹立たしかった。

 財政面は今でも厳しい。他チームでプレー機会に恵まれない格安な若手や、下部組織からの生え抜き、高校、大学の新卒選手を、補強のターゲットとするスタンスに転換。GK西川やDF森重など成果は発揮されていたが、問題点も浮上していた。「チームが苦しいときに(若い選手が多い)僕らだけでは、どうしていいかさえも分からなかった」とMF高橋。J1昇格後は、毎年のようにJ2降格危機に直面。大分は負けることに慣れすぎていた。

 その2カ月前。不振の責任を追及するサポーターが九石ドームに居残った。溝畑宏社長(48)は「リベンジ16」と題し、残り16試合での巻き返し策を模索した。少ない予算での選手補強のテーマは「精神的に引っ張れる選手」(原靖強化部長)。その答えが鈴木、エジミウソン、ホベルトの「リベンジ3戦士」だった。

 MFエジミウソンはムードメーカーとして。MFホベルトは献身的なプレーで。そして鈴木は強烈なリーダーシップでチームを生き返らせた。今季「大分愛」と呼ばれる団結力の、基礎ができた。ナビスコ杯決勝。鈴木本人は出場停止でピッチにいなかったが「(鈴木)慎吾さんのためにも勝とう」。チームは一段と絆(きずな)を深め、頂点に上り詰めた。ぬるま湯に浸かっていた1年前までの姿は、もう、なかった。【特別取材班】