<J1:磐田1-0神戸>◇第9節◇2日◇ヤマハ

 神戸のGK榎本はただ宙を見上げるだけだった。前半39分、MF西の右クロスを受けたFW前田遼一(27)が、右足でふわりとループシュート。ボールはGKの頭上を越えてゴールに吸い込まれた。この技ありゴールが決勝点になった。「GKが前にきているのが見えた。あの場面だけは冷静にできた」。同21分にゴール前の絶好機を外していただけに、喜びより安堵(あんど)の表情だった。

 エースの好調が磐田を降格圏から引き上げた。最近5試合で4得点。得点した4試合は負け知らず。チームは4月11日の5節千葉戦まで最下位だったが、その試合で前田が今季初ゴールを決めてから息を吹き返した。この日はイ、ジウシーニョと初めてFW3人がそろって先発。チームは今季リーグ最多の23本のシュートを放った。「2人の前に出る力が強いから、やりやすかった」と前田は謙遜(けんそん)した。

 日本を背負う大型ストライカーも、故障に泣いてきた。特に昨年は日本代表で東アジア選手権に出場した後、2月に右ひざを手術して前半戦を棒に振った。しかし、今季は4年ぶりに開幕戦から出場。実戦を積んで、得点嗅覚(きゅうかく)も研ぎ澄まされた。

 6月にW杯最終予選を控えた岡田監督にとっても、前田の復調は心強い。183センチの高さと足元の技術、そして前線からの献身的な守備を高く評価していた。昨年は右ひざの故障を抱えていた前田を、招集リストに残し、クラブに招集を要望した。強化担当と前田を合宿に呼んで話し合ったこともある。10月にも再招集を要望したが、右ひざの状態が悪く断念。しかし、今度こそ堂々と招集できる。

 代表復帰について前田は常に「まずはチームで結果を残さないと」と言い続けてきた。最近はストイックにサッカーのことだけを考えて口数も減った。この日の試合後、前田は「チャンスはあと2、3本あった。決めないと」。その飽くなき向上心が、代表復帰をたぐり寄せる。【栗田成芳】