<J1:磐田3-1川崎F>◇第12節◇16日◇ヤマハ

 J1磐田FW前田遼一(28)が今季7得点目を挙げ、得点ランク日本人トップタイに並んだ。前半10分、今季初めて2点リードを奪うヘディングシュートだった。W杯日本代表メンバー発表直後の試合。W杯登録選手30人には入ったものの、今季も好調な昨季の得点王は代表メンバー23人ではない。複雑な思いなど、表情にもプレーにもみせることなく、ゴールネットを揺らした。

 胸に秘めた複雑な思いは、この一撃にたたきつけたのだろうか。1-0で迎えた前半10分、FWイ・グノの右クロスを、ファーサイドから頭で合わせた。相手の日本代表GKが懸命に伸ばした手にも届かない。今季初の2点リードを奪うゴールでチームを勢いづけた。前田は「ゴールはグノのおかげです」と淡々と振り返ったが、チームはリーグ戦中断前最後の試合を白星で飾り、連敗を逃れた。

 W杯メンバー発表直後の試合で、落選に気落ちする姿はみじんもなかった。10日の発表で23人からは外れたが、12日に残りの登録選手として発表された。夢だと語ったW杯の舞台に半歩前進したが、代表チームに負傷選手が出ない限り、ピッチに立つことは厳しい。前田は「23人以外は同じだと思う。(うれしいとか悔しいという)感情はない」と、実感は持たなかった。

 昨季の得点王。今季も現時点で名古屋ケネディを1点差で追う、得点ランク日本人トップだ。それでも代表メンバーに名前はない。23人発表直後の練習を見届けた柳下監督は「違った意味での迫力があった。動きは同じだけど、球際の強さ、シュートの強さに気持ちが入っていた」と感じていた。これ以上ない結果を残しても代表に選ばれない歯がゆさが、自然と練習中のプレーに表れていたのかもしれない。

 だからこそ前田のゴールに、ファンを含めた周囲は賛辞を惜しまない。常々「いつもやることは変わらない」と静かに語る。リーグは一時中断するが、すぐにナビスコ杯が待っている。親友の駒野から「ナビスコ杯で決勝トーナメントにいきたい」と託された。淡々と黙々とゴールに向かう瞬間だけ、すべてを込める。前田遼一は変わらない。【栗田成芳】