J2横浜FCのFWカズ(三浦知良=44)が17日、東日本大震災で被災した岩手県を初訪問した。盛岡市の陸上競技場に、津波被害が甚大だった沿岸部の宮古市や陸前高田市から計451人を招待。炊き出しやボール遊びで交流し、東北社会人1部グルージャ盛岡との慈善試合(30分×2)では先発フル出場。幾度となくゴールに迫って場内を沸かせた。Jクラブの被災地慰問は初めて。かねて支援活動を熱望していたカズが県民に直接元気を届けた。

 キングが直接、被災地に光を届けた。カズがプレーするたび、1万3500人の観衆が素直に笑顔を見せる。計4度のシュートだけでなく、ワンタッチパス、またぎドリブルを披露するだけで「おぉ!」と大歓声。ファウルで倒されれば、相手が地元クラブにもかかわらず、悲鳴が飛んだ。「1つでもいいプレーをして、1つでも明るい雰囲気をつくりたい」というカズの願いが、現実になった。

 Jクラブがない県での開催に、午前の会場到着から「カズさん」の呼び掛けが途絶えなかった。開場待ちの列は、南北約1キロの公園敷地を縦断し、盛岡市内に住む52歳男性は「盛岡に、こんなに人がいたんだね」と、自然と表情が緩んだ。

 この日は、津波被害の激しかった大船渡市や大槌町の避難所からバス12台で451人を招待。陸前高田市の高田高サッカー部は3月11日、後に「奇跡の1本松」を残して壊滅した高田松原で練習していた。高台に駆け上がって命は助かったが、練習場も、置いてきた用具も流されて部員は避難所に散った。それでも、熊谷秀斗主将(3年)は「岩手にカズさんが来てくれるなんてめったにない。今後は不安ですけど、とりあえず来ました」と興奮した。

 被災地慰問はJクラブとして初めて。カズは震災発生直後から「実際に現地で活動したい」と希望していた。95年の阪神・淡路大震災、04年の新潟県中越地震で慈善試合に出場。先月29日の東日本大震災のチャリティー試合(長居)では、岩手県大船渡市出身の鹿島MF小笠原と話し、壊滅的な事情を聴いて「何とかしなければ」と誓っていた。

 炊き出しでは笑顔で握手し、カレーを手渡した。予定になかったサインも「内緒だよ」と応じ、女子高生を涙目にした。ボール遊びでは、1組10人のグループ分けでカズ組に人が殺到。そこで子供から声をかけられた。「(長居の)試合、見たよ。今日もゴールしたらカズダンスして」。カズは「うれしいね。子供と一緒の空間で喜び、楽しむことができた。被災地で実際に見た笑顔が最高にうれしかったし、逆に自分が勇気をもらった」と感謝した。

 今日18日は沿岸部の避難所を訪問。J2再開のホーム鳥栖戦(23日)を1週間後に控えながら支援するカズは「サッカーでいいニュースを届けたい。被災地に来て、触れ合って、あらためて感じた」と信念を確信に変えた。【木下淳】