<ナビスコ杯:G大阪3-2広島>◇決勝◇8日◇埼玉

 初優勝を逃した広島FW佐藤寿人(32)は、静かに口を開いた。「自分が点をとれなくてもチームが勝って優勝すれば喜べた」。前半20分にPK、同35分にポストの跳ね返りを拾って決めた。しかし逆転負け。歴代単独トップとなる大会通算28ゴールとしたが、記録もかすんだ。

 葛藤の末に立った決勝だった。「なんで、オレなんすか!」。ロッカー室で森保監督に食ってかかった。8月2日鹿島戦、0-1のハーフタイムでFW皆川と交代を命じられ、我を忘れた。「後半は得点が必要なのに。おれはやれるのに」。エースと監督が衝突した試合は1-5で負けた。

 禁断の采配批判。自分が悪いのは分かっていた。「選手起用は監督の権利。ただ悔しさと納得いかない気持ちで、その瞬間は消化できなかった」と振り返る。

 生存競争がプロのおきてだ。佐藤も00年に残留争いの千葉でベテランFW小倉を差し置いて初先発。「小倉さんも『新人がなんで』と思ったかも。いつかフル出場がなくなり、出番が最後の15分になる。でも予想より2、3年早かった」。

 一夜明けた広島での練習。森保監督に、思いの丈をぶつけた。「そういう思いがあるってことはまだまだ成長できるな」と言われた。懲罰として直後の2試合はベンチ外。夫人の「いいじゃん、人間らしくて」の言葉で心が軽くなった。佐藤は「前半での交代を粛々と受け入れちゃいけない。僕も譲れないし、監督も譲れない部分がある。この世界では普通。そうやってベテランはもがいていく」。

 9月に復活し、チームを決勝に導いた。2発を決めたが、初Vは逃した。「次こそタイトルにつながるゴールをしたい」。横目で見たG大阪の歓喜が32歳をまた強くする。【益田一弘】