「今季のベストゲームのひとつ」

試合後のシャビ監督のこの言葉が、ナポリ戦の全てを物語っている。

■ナポリ相手に2戦合計4-2

バルセロナは12日、欧州チャンピオンズリーグ(CL)・決勝トーナメント1回戦第2戦でナポリとホームで対戦した。アウェーの第1戦を1-1で引き分け、4季ぶりの準々決勝進出が懸かる一戦とあり、試合当日の地元紙は「最重要」、「全員がひとつに!」と見出しを付けて、一致団結を呼びかけ、大一番であることを強調した。

バルセロナは今季、カンプ・ノウが改修工事中のため、エスタディ・オリンピック・リュイス・コンパニスをホームスタジアムとして使用し、ジョアン・フェリックス、カンセロ、ギュンドアン、オリオール・ロメウ、イニゴ・マルティネスを補強してスタートした。

昨季は堅守を武器に4季ぶりのスペインリーグ優勝を飾ったが、今季はクラブが本来望む得点力を高めたチームへの変貌を試みた。序盤は新戦力もうまくフィットし、勝ち星を積み重ねていく。しかし、徐々に守備の脆弱さが露呈したことに加え、主力に負傷者が続出したことなどが影響し、皆が納得するようなパフォーマンスを披露できなくなっていった。

その状況は年明け後も変わらず、スペイン・スーパーカップ決勝でレアル・マドリードに、国王杯準々決勝でビルバオに敗れ、短期間で2タイトルを落とすことに。さらに1月下旬、ビリャレアルに5失点の惨敗を喫してスペインリーグで首位レアル・マドリードに勝ち点10差をつけられ、4位に後退するという厳しい状況に陥った。シャビ監督はこの結果を重く受け止め、「6月30日をもって辞任する」とバルセロナでの監督キャリアに終止符を打つことを明言した。

その後も不安定な戦いが続いたが、レバンドフスキが高い得点力を取り戻したこともあり、ナポリとの第2戦前までの公式戦8試合で5勝3分けと無敗をキープ。リーグ戦で2位ジローナとの勝ち点差を1まで詰める飛躍を見せた。

迎えたナポリとの第2戦、ガビ、ペドリ、デ・ヨング、バルデ、マルコス・アロンソ、フェラン・トーレスをけがで欠く中、シャビ監督はイニゴ・マルティネス、オリオール・ロメウ、セルジ・ロベルト、ジョアン・フェリックスといった経験豊富な選手たちをベンチに置き、17歳のDFパウ・クバルシ、20歳のMFフェルミン・ロペス、16歳のFWラミン・ヤマルという下部組織出身の若手を先発起用した。未成年の選手がスタメンに2人も名を連ねるというのは、欧州CL史上初めての出来事である。

エスタディ・オリンピック・リュイス・コンパニスに今季最多の5万301人を集めた中、若手選手たちが躍動したバルセロナは序盤から素晴らしいサッカーを展開した。早々にフェルミンとカンセロがゴールを奪って自分たちのペースに持ち込み、終盤にレバンドフスキが試合を締めくくる得点を記録。今季最高とも言えるパフォーマンスを発揮して3-1(2試合合計4-2)で勝利し、4季ぶりの準々決勝進出を果たした。

■「経験」と「若さ」がかみ合い

試合後、スタンディングオベーションを受けたシャビ監督は、安堵した表情を浮かべていた。それもそのはず、クラブは準々決勝に進出する前提で、欧州サッカー連盟(UEFA)から支払われるその賞金を年間予算に組み込んでおり、さらに参加するだけで5000万ユーロ(約80億円)もの大金を得られる25年のクラブワールドカップ出場権争いでアトレチコ・マドリードに勝つためにも、絶対に勝たなければいけない一戦だったからだ。

現地ではこの試合の勝因として、異なるポジションでの選手起用や的確な交代などが挙げられたが、中でも評価されたのは“ベテランと若手の融合”だ。シャビ監督がレバンドフスキやギュンドアンなどの「経験」に、ヤマル、フェルミン、クバルシなどの「若さ」を加え、バランスの取れたチームを構築した手腕が大いに賞賛されたのである。

バルセロナは近年、財政難によるサラリーキャップ(選手の契約年数に合わせて分割された移籍金や選手年俸などの限度額)の影響を受け、補強に大きな制限がかかり、下部組織の選手を積極的に起用する方針を取っているが、それが功を奏したと言えるだろう。

シャビ監督がデビューさせた若手がベテランに代わって次々と貴重な戦力に。その結果、バルセロナは今季の欧州CLで準々決勝に進出した8チームの中で、平均年齢が最も若いチームになっている(24・9歳)。

ナポリ戦の大舞台でヤマルやフェルミンは相手の脅威となっていたが、それ以上に際立つ活躍を見せたのは、1月にトップチームデビューを果たしたばかりのクバルシだ。

この17歳のDFは欧州CLデビュー戦で全く物怖じせず、味方に正確なロングパスを送り、デュエルでは圧倒的な強さを見せ、マッチMVPに輝いた。スペイン紙スポルトはその様を見て「バルサのドリームチーム時代のロナルド・クーマンを彷彿とさせるパフォーマンス」と形容。シャビ監督は「ビルドアップに優れ、攻撃的なプレーを生み出す冷静さがある。我々はマシア(※バルセロナの下部組織)の仕事に誇りを持たなければならない」と大絶賛した。

スペイン代表のデ・ラ・フエンテ監督もこの活躍ぶりを見逃さず、「パウは今、素晴らしい瞬間にあり、現在と未来に大きな希望を与えてくれる」と大きな期待を寄せ、今月下旬にコロンビア、ブラジルと親善試合で対戦するメンバーに初招集した。

■次はパリSGとの対戦が決定

シーズンも佳境となる今、ナポリ戦で最高の姿を見せたバルセロナは、組み合わせ抽選の結果、準々決勝でパリ・サンジェルマンとの対戦が決定した。前回同ラウンドに進んだ4季前は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、中立地リスボンでの一発勝負で開催。そこでバイエルン・ミュンヘンと対戦するも、まさかの2-8の惨敗を喫することになった。今回は近年の汚名を晴らすため、是が非でも準決勝に進出しなければならない。

しかしその前に乗り越えなくてはならない大きな壁がある。それは17日にアウェーで行われるスペインリーグのアトレチコ・マドリード戦だ。Aマドリードは今季シビタス・メトロポリターノで公式戦21試合を戦い、19勝1分け1敗と絶好調。リーグ戦首位のレアル・マドリードに唯一の黒星をつけ、欧州CLでは昨季のファイナリストでセリエA首位のインテル・ミラノに勝利し、ホームで驚異的な強さを誇っている。

スペインリーグは首位Rマドリードに勝ち点8差をつけられているため、非常に厳しい状況にあるものの、バルセロナが欧州CLを勝ち進み、リーグ戦で優勝の望みを残すためにも、この一戦は大きな試金石となるだろう。【高橋智行通信員】(サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」/ニッカンスポーツコム)