高谷惣亮(27=ALSOK)は、6連覇を決めると「お約束」のパフォーマンスを披露した。今年は「逃げ恥」でおなじみの「恋ダンス」。期待を裏切らないキレのある動きで、スタンドを喜ばせた。

 リオデジャネイロ五輪では、3回戦敗退。14年世界選手権2位の男子エースは屈辱を味わった。しかも、男子は2個の銀メダルを獲得。自分が狙った表彰台に立つ若手を見て「相当に落ち込んでいます」。精神的なショックは大きかった。

 それでも、マットに戻ってきた。決勝では19歳の山崎弥十郎(早大)と対戦。14年ユース五輪で優勝し、スピードとパワーで期待される「東京五輪の星」を一方的に下した。相手の激しい攻めをいなし、次々とタックルを決めて10-1と圧勝してみせた。

 「みんな、僕が負けるのを期待していたんでしょ。まだまだ相手じゃないですよ」と不敵に言い放った高谷だが、表彰式前には山崎に握手を求めていた。「闘志、よかったよ。それを忘れたら、東京オリンピックはない。頑張れ」。そう声をかけた。

 差し出された手を両手で握り返した山崎は「勝てるかもと思ったけれど、強かった。さすがにオリンピアン。大人のレスリングでした」と初めての対戦を振り返り、完敗を認めた。そして「声をかけられて、うれしかった。励みになりました。まだ差はあるけれど、高谷さんに勝って東京オリンピックで金メダルをとりたい」と話した。

 高谷自身、京都・網野高3年の時に全日本選手権で快進撃した。決勝で敗れ2位になっただけに、山崎の気持ちも分かる。「ガツガツした攻め、すごく刺激になりました」。若いころの自分の姿がダブったのかもしれない。「そうやって、つないでいく。大事なことだと思うんです」と、声をかけた理由を口にした。

 「4年後は31歳。すぐに東京とは言えない。1つ1つ、目の前の試合をクリアして、それがつながれば」と高谷。「27歳になって、練習量も以前ほど積めなくなった」と弱気な言葉も口をついたが「(山崎は)これから強くなるだろうけど、僕だって負けないですよ」と強い口調で言った。

 3度目の五輪出場を目指す高速タックルの27歳「イケメン」高谷と、野性のレスリングセンスで急成長する19歳の「野獣」山崎。東京五輪に向けたベテランと若手のバトルは、まだ始まったばかりだ。【荻島弘一】

 ◆荻島弘一(おぎしま・ひろかず)1960年(昭35)東京都出身。84年に入社し、スポーツ部勤務。五輪、サッカーなどを担当して96年からデスク。出版社編集長を経て05年から編集委員として現場取材へ。今夏のリオデジャネイロ五輪も取材した。