真央世界一 転倒、出血、故障に勝った!!/08年
◇2008年3月20日・3日目◇イエーテボリ、スカンジノービアム◇女子フリーほか
【イエーテボリ=菅家大輔】浅田真央(17=中京大中京高)が大失敗にめげずに逆転で金メダルを獲得した。ショートプログラム(SP)2位で迎えたフリーで、冒頭のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)で転倒しながらも、見事に立ち直って合計185・56点をマーク。SP1位のコストナー(21)、ライバルの金妍児(17)らを抑えて、初の世界女王に輝いた。中野友加里(22)は4位、前回女王の安藤美姫(20)は左ふくらはぎ肉離れをおして強行出場したが、演技途中で棄権した。
待ちに待った瞬間が、ついに訪れた。世界女王が決まると、浅田は大きな目を潤ませた。「すごく、すごくうれしい。すごく良い思い出になりました」。表彰台の頂上に立つ氷上の天才に、魅了された会場からは盛大な拍手が送られた。
幕開けは衝撃的だった。冒頭の3回転半ジャンプに入ろうとした直後、踏み切りの左足をとられ、スライディングのように大転倒。リンクの冷たさを全身で感じ、迫り来る壁が視界に入ると「びっくりした。(こんな転倒は)練習でもない。何も考えることができなかった」。負傷した左足付け根部分は血がにじみ、頭の中は真っ白になった。
以前と同じミスで崩れる最悪のパターンも頭をよぎった。「もうダメだとも思いました」。だが、ここから「大人の真央」のオン・ステージだった。「いかなきゃと思った。動揺はなかった」。即座に気持ちを切り替え、しなやかな滑りで次々とジャンプを決め、リズムに乗った。スピンも軽やかで、芸術要素を示す5項目の合計点は出場選手の中でトップ。基礎点7・5点の3回転半が0点となり、転倒による1点減点を加えたマイナス8・5点のハンディを埋めてみせた。
- 女子で優勝し、金メダルを手に笑顔の浅田真央。左は2位のカロリナ・コストナー、右は3位の金妍児(共同)
2月にアルトゥニアン・コーチとの師弟関係を解消し、「単身」で臨んだ今大会だが、実は思わぬトラブルまで抱えていた。2月下旬の練習中、ジャンプをした瞬間に左足首をねんざ。「ぼきっと音がした」。激痛が走る患部の治癒を優先させ、約1週間のジャンプ練習の中止を強いられた。
今季不調のジャンプの練習不足は致命傷。だから回復するとすぐに、「普通なら恐怖心で難しいはず」という周囲の心配をよそに、患部をテーピングで固定してジャンプ練習を繰り返した。「負けず嫌いで勝ち気な性格」と関係者が話すように、大舞台を前にしても故障のことを口外しなかった。
奇跡的な追い上げで銀メダルを獲得しながら、表彰式後に会場のトイレにこもり悔しさで号泣した前回大会から1年。SPのスランプや、「単身」で自ら考え練習を組み上げることを経験し、日本連盟の伊東フィギュア強化部長が「強くなった」と称賛したように心身ともに成長を遂げた。
ただこの日の結果は、ミスを連発したライバルの自滅という要因もあった。「前回はSPで大きなミスをして、SPの大切さをあらためて感じた。今回は3回転半を失敗したけど、あきらめないこと(の大切さ)を感じた」。来季、そして10年バンクーバー五輪に向け、師事する振付師タラソワ氏の人脈などをもとに新たなコーチを決める予定。世界女王として追われる立場となったこの日から、さらなる進歩を求めていく。
ジャンプ失敗!!高橋屈辱の4位
◇2008年3月22日・5日目◇イエーテボリ、スカンジノービアム◇男子フリー
【イエーテボリ=菅家大輔】日本男子初の金メダルが期待された高橋大輔(22=関大)だったが、前回の銀メダルにも届かず、表彰台を逃す屈辱の結果となった。ショートプログラム(SP)3位から、この日のフリーでは連続ジャンプでのミスが目立ち、合計220・11点。2月の4大陸選手権でマークした世界最高に44・3点もおよばない演技で4位に終わった。優勝はジェフリー・バトル(25=カナダ)で合計245・17点。初出場の小塚崇彦(19)は205・15点で8位、南里康晴(22)は179・88点で19位だった。
まさかの屈辱だった。日本人男子初の金メダルどころか、2季連続メダルも逃した。高橋は「緊張して体が動かなかった。自分の良さを出せなかった。すべてにおいて納得がいかない」と顔をしかめた。
「練習からジャンプの調整が悪く、今朝もモロゾフ(コーチ)からは4回転を1回にしろ、と言われた。でも逃げたくなかった」。果敢に挑んだ最初の4回転は見事に着氷。だが続く連続ジャンプの最初の4回転で転倒。「(最初の失敗で)考えすぎてしまった」というトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も手をついた。
- 男子フリーでジャンプに失敗した高橋大輔(共同)
前回大会で銀メダルを獲得した直後から、世界一に照準を定め練習に取り組んできた。SPの「白鳥の湖」には異例のヒップホップ調を取り入れた。フリーには4回転ジャンプを2度入れた。消耗の激しい演技構成のため肉体改造にも着手。渡部文緒トレーナー(33)と通年契約し、体力と柔軟性が必要となる股(こ)関節の可動域アップを主眼に練習を積んできた。
2月の4大陸選手権ではフリーと合計点でトリノ五輪金メダルのプルシェンコを超える世界歴代最高点をマークし、成果は表れた。だが、克服したはずの精神的な弱さが、大一番で顔をのぞかせた。事実、焦りから終盤に急きょ連続ジャンプを加えたが、規定を超える4つ目の連続ジャンプとなり、無得点となる致命的なミスまで犯した。
「ジャンプが不調のこの状況で4回転を1本でも決められたのは大きい」という収穫もあった。この日の悔しさを来年3月の世界選手権、そして10年バンクーバー五輪での偉業への布石とする。
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