高橋銀、羽生銅!日本男子初W表彰台/12年
◇2012年3月31日・6日目◇フランス・ニース◇男子フリーほか
【ニース=阿部健吾】初出場の羽生結弦(17=東北高)が日本男子最年少で表彰台に上がった。SP7位からのフリーは自己ベストを大幅に更新する173・99点で、総合251・06点の3位となった。仙台出身で、昨年の東日本大震災では避難所生活も体験。苦難を乗り越えた大舞台で、こん身の滑りをみせた。SP3位の高橋大輔(26=関大大学院)は2位で、日本男子の複数メダル獲得は史上初となった。パトリック・チャン(カナダ)が2連覇を果たし、小塚崇彦(23)は11位に終わった。
震えていた。右拳を大きく振り上げ、眼光鋭く前を見つめた。肩で息をしながら、思わず目頭が熱くなった。「ありがとうございます」。観客に、そしてエールを送ってくれた遠く日本の人々へ。羽生の額から滴る汗に、涙が混じった。
羽生 被災地の方々の応援を自分の中でしっかり受け止めた。
冒頭で、完璧な4回転トーループを着氷。波に乗った。途中のステップで転倒するアクシデントがあったが「逆に休めたと前向きにとらえた」。続く3回転半-3回転の連続ジャンプを決め、ミスを最小限に抑える。途中では、興奮に思わず雄たけびを上げた。
仙台市出身。昨年の東日本大震災では練習中に被害に遭い、スケート靴が脱げずにリンクにひざをついて逃げた。4日間は家族4人が避難所暮らし。畳1畳に毛布1枚の生活も味わった。その後は復興支援のショーに60以上も出演。「被災地代表みたいに何でも取り上げられるのが嫌だった」時期もあったという。
転機は1月。もらっていた500通のファンレターすべてに返事を書いた。「勇気を伝えようとしていた僕が、本当は支えられていたんだな」。1文字1文字をかみしめた。「自分が出せるのは結果。被災地代表として日本が頑張っているというアピールをしたい」。そう言っていた通りの演技を、大舞台で披露した。
02年大会で21歳で3位に入った本田武史の日本男子最年少メダル記録を大幅に塗り替えた。2年後のソチ五輪に向け、初の10代メダリストは伸びしろ十分だ。「(4回転)サルコーも練習しているので、来季は入れられるように」と飛躍を誓う。
演技中の鬼気迫る表情に、表彰台でみせたあどけない笑顔も魅力の新星。「最後はハッピーエンドになったかな」。これから、もっと多くの〝ハッピー〟を応援してくれる人たちに届けるだろう。
高橋、歴代最多の3個目メダル
- 日の丸を手に笑顔で記念写真に納まる銀メダルの高橋(右)と銅メダルの羽生(共同)
高橋が、誇らしげに左手を胸にあて、大歓声を楽しんだ。冒頭の4回転を着氷すると、続く7度のジャンプもほぼ成功。「最高のパフォーマンスでした。今季をこういう形で終われて良かった」。銀メダルで10年の世界王者が意地を見せた。
「ブルース」の重厚な音に乗りながら、今季最高の滑りを披露した。2月の4大陸選手権(米コロラド州)後、その足でデトロイトに移動。振付師のカメレンゴ氏にフリーの再考を依頼し、3日間で調整した。その新たなフリーで「充実した1年の締めくくりだった」と手応えを感じた。
昨季の大会終了後、ソチ五輪までの現役続行を宣言した。念願の五輪金メダルの前には、王者チャンが立ちはだかる。「あと2年間、この充実した気持ちを持って行きたい」。28歳で迎える3度目の五輪。打倒チャンに向けた道のりを思い描いているようだった。
真央「なんでなの」3回転半失敗で6位
◇2012年4月1日・7日目◇フランス・ニース◇女子フリーほか
【ニース(フランス)=阿部健吾】フィギュアスケートの世界選手権は3月31日に女子フリーが行われ、浅田真央(21=中京大)はSPに続きトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)に失敗した。今季ワーストの105・03点。総合164・52点の6位。一夜明け、14年ソチ五輪へ「向上を目指す」と言った。鈴木明子(27)が3位、日本女子最年長メダリスト。優勝はカロリナ・コストナー(イタリア)。男子は高橋大輔(26)が2位、羽生結弦(17)が3位で日本男子初の複数メダル。パトリック・チャン(カナダ)が連覇を果たした。
曇り続けてきた浅田の表情が、一瞬だけ晴れた。2年後のソチ五輪。その大目標について聞かれると「いまの状態から上を目指していけば、100点以上になる。向上を目指して頑張ります」。苦闘のフリーから一晩たち、気持ちを奮い立たせようとしていた。
前日は「56回目の挑戦」が散った。ニース入り後は練習、SPで3回転半に挑み続けること55回。フリーが56回目だったが、抜けて1回転半に。執念は実らなかった。他のジャンプでもミスが目立ち「なんでなのかな…」とぼうぜん。昨年2月の4大陸選手権以来1年ぶりの代名詞復活はお預けとなった。
- 女子フリーの演技でジャンプに失敗する、6位に終わった浅田真央(共同)
日本での好調さが消えた要因について「わからないけど、なにか体が動いていなかった」と話した。佐藤コーチは「力みが入っていた。いろんな重圧があったのかな」と分析した。
絶不調の中での挑戦について、同コーチは「(浅田から3回転半を)取り上げるとテンションが下がる。日本では本当に良かったから、跳ばせてあげたかった」と説明し「ここが目標ではないですから」と続けた。指導はまだ2年。信頼関係をより深めるため、浅田も「日本に帰って、先生といろいろ話したい」と希望した。
これで母国開催の国別対抗戦出場(19~22日、代々木第一体育館)は微妙な立場になった。女子シングル出場は2人。世界ランクの上位2人の出場が通例で、同8位の浅田は日本人4番手。代表から漏れる可能性もある。
視線は先に。2回転半との使い分けについて「今後、先生とやる上で大会の時で使い分ける必要はあるかな」とうなずいた。トンネルの先、光があると信じ、進むしかない。
鈴木が銅!日本女子最年長メダル
- 女子フリーで演技する、3位に入った鈴木明子(共同)
鈴木が日本女子最年長メダリストに輝いた。SPは5位も、フリーは全体2位の121・30点。合計点180・68点で銅メダルを獲得した。一夜明けて「前夜はコーラで祝杯をあげました」と白い歯がこぼれた。演技後は「何歳でも成長、進化できると信じてやってきた」と胸を張った。集大成の大会と位置付け「毎日の練習を最後になる自覚をもってやってきた」という。ミスもあっての銅メダル。本音は「いまはうれしいですけど、演技直後は悔しかった」。「コーチにも『この演技では泣けないな』と言われて」と話し、現役続行に気持ちは傾く。大会期間中の28日に27歳に。「これが一番最初のプレゼント」。まだまだ大きな贈り物は、競技人生に待っている。
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