高橋、今季世界最高点で日本男子初の金/10年
◇2010年3月25日・3日目◇イタリア・トリノ、パラベラ競技場◇男子フリーほか
【トリノ=広重竜太郎】高橋大輔(24=関大大学院)が日本男子初となる世界王者の座についた。ショートプログラム(SP)1位で臨んだフリーは、前人未到の4回転フリップこそ失敗したが、その後は完ぺきな演技で168・40点をマーク。バンクーバー五輪でライサチェク(米国)が金メダルを獲得した時の得点を上回る、今季最高の257・70点で初優勝を飾った。同五輪での日本男子初のメダル(銅)獲得に続く快挙だ。SP4位だった小塚崇彦(トヨタ自動車)は10位に終わった。
最後のポーズを決め、高橋は恍惚(こうこつ)の表情のまま、しばらく止まった。世界一と認めた大観衆が総立ちで、たたえている。その光景を数秒間かみしめ、両手を振って応えた。「(五輪8位の)4年前のトリノでの悔しい思いを返せた。最高のパフォーマンスだった」。
冒頭に世界で誰も成功していない4回転フリップに挑んだ。最終滑走で他の選手の得点を考えれば、回避もできた。実際、悩んだ。直前の6分間練習ではトーループと2種類の4回転ジャンプを試した。長光歌子コーチには「どうしたらいい?」と聞いたが「滑り始めてから決めれば」と判断を委ねられた。
そしてリンクの上で決めた。「3回転で失敗したら悔いが残る」。決まれば基礎点11・30点だったが、回転不足で大幅に減点された。「練習でも1度も決まっていないし、無謀だった」と苦笑いも、果敢な挑戦で攻めの信念を貫いた。
- 男子で優勝した高橋大輔のジャンプ(共同)
1カ月前の五輪で日本人男子初のメダリスト。その時点で心の糸は切れた。練習に身が入らない。そんな時、心の糸を結び直したのは4回転フリップ。練習に取り入れ、高橋は「チャレンジを楽しめた」と、挑戦心に再び火がついた。
4年前の五輪を始め、過去の大会でズボンのヒモが取れたり、ジャンプ構成のミスで優勝を逃すなど何度も苦い思いをさせられたトリノの地。周囲には「自分にとっていい場所ではない」と弱音も吐いた。だがこの地での栄光は運命のようだった。フリー曲はイタリアの巨匠、フェリーニ監督の名作映画「道」。地元観衆の誰もが知る曲で男の色気を情緒豊かに演じた。ステップ、スピンはすべて最高難度のレベル4。総合得点はライサチェクの五輪金メダル時を上回った。
紆余(うよ)曲折を経ての世界一。08年10月に選手生命を脅かされる右ひざ前十字靱帯(じんたい)断裂の重傷を負い、復帰した今季は2つの世界大会で日本人初の偉業を達成した。長光コーチは「ドラマでもこんな結末はくさい」と言った。14年ソチ五輪の挑戦は明言していないが、来年東京開催での世界選手権連覇が次なる目標だ。今回はライサチェクと五輪銀メダルのプルシェンコが欠場していた。「みんないて、気持ちが入った中で金メダルを狙いたい」。高橋の「道」には、まだ続きがある。
世界女王奪回!真央2年ぶり金メダル
◇2010年3月27日・5日目◇イタリア・トリノ、パラベラ競技場◇女子フリー
【トリノ=広重竜太郎】世界女王に返り咲いた浅田真央(19=中京大)が新コーチとともに再出発する。ショートプログラム(SP)2位から臨んだフリーで129・50点をマーク。フリー1位はバンクーバー五輪金メダルの金妍児(韓国)に譲ったが、同五輪銀メダルの雪辱を果たして、2年ぶりに日本選手初の2度目の優勝を果たした。記者会見では「技術面をしっかり見てくれる先生を探している」と話し、新コーチのもとで14年ソチ五輪金を目指す意欲を示した。
世界女王の座を取り戻しても、浅田の瞳はすぐに未来へ向いていた。場内での優勝インタビューでは「グラッツェ(ありがとう)」とイタリア語で答えるなど喜びに浸った。だが記者会見で来季の態勢について聞かれ、さらなるステップアップを宣言した。
浅田 ジャンプの種類を増やせると思うし、やらなきゃいけない要素もたくさんある。まだ来季のことは決めていないが、技術面をしっかり見てくれる先生を探している。
- 女子SPで笑顔を見せる浅田真央(共同)
最近2シーズン、ロシア人のタラソワ・コーチの指導を受けた。だが同コーチはロシア代表の強化責任者を兼任。直接指導は年間の4分の1に満たず、今大会も現地入りしなかった。浅田は一時期、挑戦していた3回転フリップ―3回転トーループの連続ジャンプを「来季はやってみたい」と発言。そのために常時、指導を受けられる態勢が必要だ。
今大会は強靱(きょうじん)な意志で優勝をつかみ取った。五輪後、心は折れかけ、体重も2キロ増。だが「SPとフリー両方完ぺきに滑りたい」と思い直し、臨んだ。五輪フリーではスタミナが尽き、後半のジャンプでミスを連発。「今日は後半は絶対に決めよう」と挑み、2つ目の3回転半ジャンプの回転不足以外は華麗にフリー曲「鐘」を演じきった。
引退の可能性もあるライバル金にも10度目の直接対決で5大会ぶりに勝ち、4勝6敗とした。「ジュニアのころからヨナとやってきて、自分も同じように頑張ろうと思い、だからずっと成長できた」と存在の大きさを認めた。
浅田陣営は今後、タラソワ・コーチとはアドバイザーとしての関係を継続しつつ、日本人コーチを中心に後任を探す意向だ。浅田は今回の優勝を「五輪での悔しさはこの試合で晴らすことはできない」と位置付けた。五輪金メダルという最終目標だけを、浅田は見据えている。
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