強い羽生が日本に帰ってきた。昨年覇者の羽生結弦(21=ANA)が今季SP最高得点となる103・89点をマーク。GPシリーズでは昨年のGPファイナルに次いで2番目に大きい15・95点差で首位発進した。総合3位以内なら決まる5季連続のGPファイナル(12月8日開幕、フランス・マルセイユ)出場はほぼ確実となった。

 演技前、羽生が上着を脱いだ。「プリンスさんを意識した」という新しい薄紫の衣装を見せると、悲鳴に似た歓声が響いた。応援を背に「楽しもう」と曲に、勢いをぶつけていった。

 冒頭の4回転ループ。10月のオータムクラシックで世界で初めて決めた大技は、着氷でこらえた。出来栄え点はマイナスになったが、ここから本来のすごみを見せていった。

 続く4回転サルコー-3回転トーループ、最後のトリプルアクセル(3回転半)は完璧な出来。全身を使い、音楽に乗った。表現力を示す演技構成点はすべて9点台。通算7度目の100点超えで、今季世界最高点をたたき出した。

 スタンディングオベーションの中、手で「あとちょっと」というしぐさで苦笑い。最初の4回転ループが心残りだった。「ループがきれいに決まればあと5点ぐらいは伸びる」と自信たっぷりの“羽生節”で振り返った。

 今季のSP曲に、プリンスの「レッツ・ゴー・クレイジー」を選んだ。昨季まで2季連続で使ったピアノ曲から一転。自ら振り付けにかかわり、プリンスになりきろうと動画も研究した。最近2戦はジャンプミスもあり、「悪いイメージもあった」と衣装を変更。これまでの「白」は氷と同化して演技が見えづらい事情もあった。より「プリンスのカラーを意識して」紫色にした。

 「楽しかった。やっとプログラムらしくなった。でも、もっといけます」。1年前のNHK杯は、SPで106・33点、フリーで216・07点、合計322・40点とすべてで当時の歴代最高得点をマークした。日本ならではの大声援もプレッシャーではなく追い風になる。今日のフリーへ向けて、課題を残した4回転ループは「しゅっとやって、ぱっと降りるだけです」と笑わせた。「フリーはたくさんジャンプがあるので、いっぱい決めたい」。大差をつけた羽生が見るのは、もう最高の演技だけだ。【高場泉穂】