酒に酔って寝込んだ10代少女に乱暴したとして、警視庁捜査1課は6日、準強姦(ごうかん)の疑いで、アテネ、北京両五輪柔道金メダリスト内柴正人容疑者(33)を逮捕した。9月下旬にコーチとして九州看護福祉大(熊本県玉名市)女子柔道部の遠征に同行。都内で10代の部員ら数人と酒を飲んだ後、ホテルで1人に乱暴したという。この行為のため、先月29日に同大客員教授を懲戒解雇。日本人の五輪金メダリストでは初の逮捕劇に発展し、スポーツ界に衝撃を与えた。

 内柴容疑者は9月下旬、都内の飲食店で被害者を含めた女子柔道部員ら数人で飲酒した後、合宿先のホテルの一室で寝込んだ10代少女に乱暴したという。酒に酔った女性柔道部員の介抱を装って乱暴していた疑いがある。この部員の被害届を受け、警視庁捜査1課が調べていた。この日は、熊本県玉名市内の内柴容疑者の自宅を捜索。容疑者が他の部員に対しても不適切な行為をしていなかったかも含め、裏付けを進める。

 内柴容疑者は取り調べに「納得できない。合意の上だった」と容疑を否認。2日付の個人ブログでは「いろんな『え~』がたくさんありますけど、まあ、いいです。大切なことはここに書いていきたい」と、反論していく意向を示した。しかし同課は、遠征中で周囲の目が届きにくい中、指導者という立場を利用して未成年の部員に酒を飲ませ、乱暴したとみている。

 内柴容疑者が客員教授を務めていた九州看護福祉大は、部員関係者から事実関係を調査。先月29日、同容疑者を懲戒解雇した。今回の準強姦容疑が原因だったが、同大はセクハラ行為とだけ発表し、詳細を明かしていなかった。同大の二塚信学長は「(解雇の)記者会見で述べた事実に合致するもの。裏切られたという思いでいっぱい」とコメント。被害者の数については「必ずしも1人とは申し上げられない」とし、複数の可能性を示唆した。

 金メダリストの逮捕という非常事態に衝撃が広がった。2度の紫綬褒章を同容疑者に授与した内閣府は、3年以上の懲役刑が決まった場合、規定に従って紫綬褒章を取り消す意向を明かした。3年未満の懲役刑や執行猶予付きの場合は、対応を検討する。県民栄誉賞を2度授与した熊本県や、名誉市民の称号を贈っている熊本県合志市は、想定外の事態で対応を決めかねている。県民からは「賞を取り消すべきだ」という電話が数本かかってきたという。

 内柴容疑者の身柄はこの日夕、警視庁本部から留置場がある原宿署に移された。日本柔道界だけでなく、日本スポーツ界にも泥を塗る格好になり、関係者の失望は計り知れない。

 ◆内柴正人(うちしば・まさと)1978年(昭53)6月17日、熊本県合志市生まれ。9歳で柔道を始め、国士舘高、国士舘大卒業後、旭化成に入社。得意技はともえ投げ。国際大会の男子60キロ級で結果を残すが、減量に苦しみ66キロ級に転向。04年アテネ五輪男子66キロ級でオール一本勝ちで金メダルを獲得した。08年北京五輪で同級2連覇。09年4月に九州看護福祉大の非常勤講師となり、昨年4月に女子柔道部のコーチに就任。同年10月に現役引退を表明し、今年1月に同大の客員教授に就任。160センチ、66キロ。血液型B。家族は妻と1男。

 ◆準強姦罪

 女性の心神喪失や抵抗ができないことに乗じて、強姦する罪。睡眠状態、または酒、薬物で昏睡(こんすい)状態にある女性、知的障害や性的知識の乏しい女性をだまして性交する場合などに適用される。刑法第178条の1、第2項で禁じられ、3年以上の有期懲役に処せられる。暴行または脅迫で相手の反抗を困難にし、強姦した場合は強姦罪。準強姦と罪の重さは同じ。この場合の「準」は軽いことを示すのではなく「強姦に準じる(ならう)扱い」という意味。