<フィギュアスケート:グランプリファイナル>◇第2日◇12日◇スペイン・バルセロナ

 男子ショートプログラム(SP)で2連覇を狙う羽生結弦(20=ANA)が今季最高得点となる94・08点を記録し、首位発進を決めた。転倒はあったが、冒頭の4回転ジャンプを今季初めて成功させ、独走状態に。約1カ月前の中国杯で負ったケガも快方に向かい、完全復活へののろしを上げた。

 「幸せでした」

 リンクの上で、久しぶりの感覚を味わっていた。

 羽生

 本気で追い込みきれなかったのもあったし、考えながら滑らざるを得なかったので、考えずに試合だけに集中し切れたのが幸せだったかな。

 全身5カ所に及んだ約1カ月前の中国杯での負傷。どうしても体のことを考慮し、心身に制限をかけ続けた。2週間前のNHK杯で施していた全身のテーピングは外れたが、いまも腹部を触れば筋肉の陥没を感じる。激突後に氷上にたたきつけられた時の痕跡。ただ、その体を押して、激しい練習を重ねてきた。

 「こんなのできないよ!」。2週間前にオーサー・コーチから練習メニューを渡されたときは嘆いた。それだけの練習量と質を体に強いてきた。追い込んでも痛みは出なくなっていった。だからこそ、演技に集中できた。

 冒頭の4回転トーループは、ソチ五輪を制した昨季のキレと鋭さを想起させる鮮やかさで跳んだ。試合では今季7度目にして初の4回転に成功。「気持ちいいな。ああ、こういう感覚だったな」。すると、記憶はもっと昔に飛んだ。「久しぶりに曲を感じてるな」。13年のGPファイナル以来、全身で曲と共鳴できた。

 もともと今季の挑戦の1つだった。演技の幅を広げる意味で振付師に出した要求は「ピアノ」。五輪王者にとどまらず進化のため、ショパンに新たな領域を求めた。「ワルツの3拍子は難しいな。ピアノ独特の強弱をつけないと」。体の心配がなく、曲と向き合えた。ステップ、スピン-。負傷で保留を余儀なくされた、挑戦を楽しんだ。

 後半の3回転ルッツでバランスを崩し、続けた3回転トーループで転倒した。「やっちまったな」。演技を終えると思わず舌を出したが、悲愴(ひそう)感はまったくない。悔しそうにしながら、心から無邪気な笑みが浮かんだ。「でも、本当に久しぶりに笑って終わったので!」。

 7日に20歳の誕生日を迎えた。初演技は「幸せ」で終えた。10代最後に襲った悲劇を忘れさせる、20代の始まりには笑顔があふれていた。【阿部健吾】