<柔道:世界選手権>◇10日◇男子90キロ級◇東京・代々木第1体育館

 19歳のホープ、男子90キロ級の西山大希(筑波大)が、日本男子23年ぶりの10代メダリストになった。初戦から3試合連続1本勝ち。決勝では、3回戦で世界ランク1位の小野卓志(30=了徳寺学園職)を下した04年アテネ五輪81キロ級金メダリストのイリアディス(ギリシャ)に1本負けしたが、延長戦まで持ち込む接戦を演じて銀メダルを獲得した。日本男子の10代メダリストは1987年西ドイツ大会の無差別級で金メダルを19歳で獲得した小川直也以来。世界大会初出場で12年ロンドン五輪の期待の新星に名乗りを上げた。

 19歳の西山は確かに世界の頂を見た。だが「若さ」だけでは、頂点に立てなかった。怪力の81キロ級五輪金メダリストに背中を持たれる。直前合宿でも練習したが「両手を使って距離を保とうとしたが、その時と違って釣り手を(背中に)落とされた」。焦りを感じながら内またを繰り出して耐えたが、延長戦まで体力が持たない。最後は技が仕掛けられず、「指導」をアピールする外国人関係者の指笛にしびれを切らすように前へ出て、逆に払い腰を食らい、1本負けした。

 「金メダルの期待に応えられずに申し訳ありません」。大魚を逃した。日本代表通算100個目の金メダルに王手をかけていた。獲得すれば19歳9カ月で、小川直也の19歳5カ月に次ぐ日本男子歴代2位の年少金メダリストの誕生だった。だが同時に首から下げた銀メダルの重みも感じていた。「満足できないけど、メダルがないのとでは違うと思う」。大粒の汗を流しながら答えた。

 90キロ級は世界ランク1位の小野が優勝候補で西山への注目度は高くなかった。だが男子代表の篠原監督も「1本を狙う姿勢がある」と太鼓判を押していた。戦いが始まれば、初戦から3連続1本勝ちと快進撃を演じたのは若き19歳だった。

 弟で73キロ級の強化指定選手、雄希と歩いてきた。名門の東海大柔道部出身で高校時代には金鷲杯で優勝経験もある父太郎さんから、ともに指導を受けた。だが小さいころは弟の方がセンスがあった。「毎日20回ぐらい殴られて、顔がミミズばれ。釣り手の返し方とか難しいことを言われて、できないとボコボコ。でもそれが今に役立っている」。温厚な兄は、後方からゆっくりと成長を続けた。

 大学入学後、同居する自宅では西山が得意の料理を弟に振る舞って世界を目指した。昨年の世界ジュニアは雄希が優勝、西山は3位。だが西山はシニア大会で今春まで好成績を残し、1人、世界選手権代表に初選出された。大会前に弟からメールが届いた。「金メダルは取るなよ。兄弟で一緒に取ろう」。負けん気の強い弟の思いが心に染みた。

 「結局、弟の思う通りになった」。苦笑いしたが「銀メダルで弟が燃えてくれれば。次は一緒に金メダルを取りたい」と晴れやかに言った。“西山兄弟で世界一”の夢を兄として引っ張っていく。【広重竜太郎】