朝青龍(29=高砂)がモンゴル政界進出の野望を加速させる。日本相撲協会に解雇される前に、自ら引退を選択し、経歴上は「無傷」で第2の人生を踏み出すことになった。年寄名跡(親方株)襲名に必要な日本国籍を保有しておらず、相撲界に残ることはできないが、すでに本人は引退後の母国での政界進出を周囲にもらしていた。暴行騒動による引退も、母国では同情的に受け止められており、その知名度と人気は依然絶大。2012年の国会議員選挙へ出馬する可能性も出てきた。

 今後の進路について朝青龍は「整理がつくまでゆっくり休みたい」とだけ話した。両国国技館に足を運ぶまでは現役続行のつもりだっただけに、それが素直な気持ちだった。ただ最後に自ら引退を選択して、解雇という最悪の事態を回避した。数々のトラブルを起こしてきたが、経歴上は「無傷」のまま相撲界を去る。

 この選択で、第2の人生の目標「モンゴル政界進出」へ、一気に加速する可能性が出てきた。もともと「モンゴルで大統領になる」という野望を持っている。母国では銀行を含めた「ASAグループ」の形成に尽力するなど実業家の一面も持つ。政界にも影響力を持ち、与野党の首脳と強い信頼関係も築いている。昨年、ある関係者に「30歳まで現役」と話し、12年のモンゴル国会議員出馬を視野に入れていた。

 その野望のために、横綱になっても年寄名跡襲名に必要な日本国籍を取得しなかった。近い関係者によると、昨年秋場所で24回目の優勝を遂げた後、協会幹部から「25回の優勝で日本人になれば一代年寄もある」とささやかれたという。初場所でそのノルマをクリアしたことで、日本国籍取得に心が揺らいだ。しかし、その矢先の引退決断で、迷いも消えたはずだ。

 日本ではトラブルメーカーで「悪役」のイメージが強いが、母国モンゴルでは国民的英雄で人気は絶大だ。引退会見では相撲人生を振り返り、目に涙を浮かべた。その様子は母国でも報じられ、同情論が広がっている。「解雇」という傷もつかなかった。12年の国会議員選挙に出馬すれば当選は確実視されている。。

 格闘技転向については、以前から「横綱までなった人間が他の競技をやって恥をかくことはできない」と否定的だった。08年11月には、ある団体から億単位の条件提示を受けたが、拒否した。その特異なキャラクターを生かして、日本でタレント活動を続ける可能性もあるが、チンギスハンにあこがれる29歳は、母国のトップになる「壮大な夢」に向けて歩みを始めることになりそうだ。