<大相撲春場所>◇千秋楽◇28日◇大阪府立体育会館

 1人横綱の白鵬(25=宮城野)が「綱の意地」で全勝Vを飾った。大関日馬富士(25)との熱戦を上手投げで制し、2場所ぶり13度目の優勝。関脇把瑠都(25)が1敗を守り、負ければ優勝決定戦だった一番で豪快に決めた。5度目の15戦全勝は、2月に引退した元横綱朝青龍関らに並ぶ歴代5位。朝青龍なき土俵で、綱の強さを見せつけた。

 大きな肩が揺れていた。全勝Vを決めた白鵬に、笑顔を見せる余裕はなかった。花道では下を向き、全身から汗が噴き出る。「うれしいですけどね。疲れた」。日馬富士には頭をつけられ、出し投げで揺さぶられた。それでも命綱の左上手をつかむと、決して勝負を急がない。1分7秒の大熱戦。最後は右手で相手の頭を抑えながら左腕に力を込め、大関を裏返した。

 使命感と闘う15日間だった。「朝青龍関が引退して『自分が引っ張っていかなきゃ』という強い気持ちがあった。それだけです」。先輩横綱が暴行騒動で引退し、史上9人目の1人横綱に。「心に大きな穴があいた」というが、感傷に浸る立場ではない。快進撃を続けた把瑠都の壁になり、朝青龍と同じように1人横綱最初の場所で15戦全勝した。

 賜杯を天に届けた。年間86勝した昨年末、今年の目標を「春場所で優勝すること」と言った。入門以来、負け越したことのない大阪には恩人がいた。関西の大相撲愛好者団体「東西会」の会長だった川端弘三さん。昨年11月5日、84歳で亡くなった。白鵬が「最初に『双葉山に似ている』と言ってくれた。それが励みになった」という人だ。

 横綱になる前から、叱咤(しった)激励してくれた。昇進時には「服装からしっかりしなさい。品格というものが出てくる」と着物7着や雪駄(せった)、太刀まで贈られた。12月3日の葬儀には九州から参列。息子の啓一さんは「取り口が似ていて、双葉山が重なったみたいですね」。その双葉山の優勝回数を超えて「とんでもないです」と恐縮した。

 初日前日の13日には、部屋の元幕下力士で、大阪市相撲連盟理事長を務める朝井英治さん(39)が訪ねてきた。人目を避け、部屋の倉庫で1時間。「日本の相撲人口を増やしてほしい」「モンゴルと日本の小学校で交流相撲ができないかな」などと語りかけたという。場所前には、後援会幹部に「座禅」や「滝行」を行う希望も伝えた。角界の頂点にいる自覚は十分だ。

 2人の子どもに祝福のキスをされて、「やっと終わった感じ」とつぶやいた。この日の50本を加え、今場所獲得した懸賞は404本。07年初場所に朝青龍が記録した344本を抜き、歴代最多となった。「自分が引っ張っていく」という白鵬が、充実の土俵で角界のニューリーダーになった。【近間康隆】