<大相撲九州場所>◇6日目◇18日◇福岡国際センター

 大関挑戦中の関脇稀勢の里(25=鳴戸)が、再び白星街道に乗った。全勝だった関脇鶴竜(26)を一方的に押し出して5勝目。前日5日目の初黒星からうまく切り替えに成功した。場所前に急逝した先代鳴戸親方(元横綱隆の里)の教えを思い出し、連敗を阻止した。

 その顔には、満足感がにじみ出ていた。取組後の稀勢の里は今場所中で一番口数が多かった。

 稀勢の里

 慌てて出て懐に入られないようにした。立ち合いにうまく当たれた。あそこ(土俵際)まで行くと逆転だけ気をつけた。強引に行くと逆転を食うから。本当ならもっと厳しい攻めをして、1回目の土俵際で決めたかった。もっともっと、厳しい攻めをしないといけない。

 立ち合いで優位に立つと得意の左おっつけで体勢を崩し、最後まで慎重に攻めて押し出した。好調の鶴竜との関脇対決に完勝。また1つ、天国の師匠に供養の星を届けた。昇進目安の11勝まで、あと6勝だ。

 前日5日目は平幕豪栄道に完敗。脳裏には、先代の怒り顔が浮かんだ。今場所中、先代の話題についても初めて触れた。「昨日はだいぶ力が入っていた。昨日の相撲だったら、また怒られるかなと思いますから。しっかり自分で反省した」。厳格な師には生前、何度も何度も叱られた。先場所は初日から8連勝後、3連敗。先代いわく「周りが引いちゃうくらい」の説教を食らった。そんな指導を思い出し、ビデオも繰り返し見て、修正に成功した。

 先代の急逝に加え、部屋の兄弟子の前頭若の里がこの日から負傷休場。稀勢の里にかかる重責がいっそう増した。部屋を継承した新鳴戸親方(元前頭隆の鶴)は「部屋頭なんで引っ張ってもらいたい。こっちから言わなくても分かってると思う」と期待を寄せた。

 負ければズルズル行く可能性もあったが、冷静に連敗を阻止。悲しみを乗り越え、課題だった精神面の成長とともに、ひと皮むけつつある。自分にはより厳しさを向ける。「そうじゃないと上に上がれない。いつも以上に反省している」。心の支えは惜しまれつつこの世を去った。それでも残した教えは、愛弟子の中に確かに生きている。【大池和幸】