<大相撲九州場所>◇10日目◇22日◇福岡国際センター

 関脇稀勢の里(25=鳴戸)が、大関昇進目安の11勝にあと3勝と迫った。東前頭2枚目の栃ノ心(24)の下手投げにヒヤリとする場面もあったが、寄り切って勝ち越し。「研究の虫」が、前回対戦での敗北を生かした。今日11日目は、全勝を守り単独トップに立った横綱白鵬(26)との注目の一番。

 「危ない!」。館内から悲鳴が漏れた。稀勢の里は栃ノ心に首を抱えられ、左下手投げに右腰が浮いた。それでも左足を踏ん張ってこらえ、左四つのまま力強く寄り切り。「あそこは大丈夫でした」。見た目はピンチでも、本人には残せる自信があった。栃ノ心得意の右差し、左上手を完全に封じていたからだ。

 「右差しを警戒していた。うまい相手だからね。名古屋では(立ち合い)2回突っかけられて、3回目で右を差されたから」。前回対戦した7月の名古屋場所では深く右を差された末、寄り切りで敗れた。しっかり相手の情報が頭にインプットされていた。

 大ざっぱに見えるが、実は熱心な研究家だ。取組は必ず自分で録画のセットをして、繰り返し見て反省。新十両から日課にする。「まあ、仕事っすからね。研究するっていうのも。勝負に挑むための準備ですから。自分でできなかったら仕事にならないから」。九州の部屋にもテレビと機材が置いてある。

 「稀勢ノート」も存在する。場所前、出稽古に来た相手の気づいた点をメモ。「場所中に考えてることは、場所前の感想とは誤差が出てくるから」というのが理由だ。「考えたことを忘れちゃうからですね。思ったことを書いておく、字に残る、書くことによって覚えるし」。過去のページをめくり、当時の気持ちを思い出すこともあるという。書き始めた約2年前から三役に定着。コツコツとした努力が実を結んでいる。

 そして11日目は注目の横綱戦。昨年九州で白鵬を63連勝で止めてから、この顔合わせは3勝2敗。中止になった春場所を除く過去1年間で勝ち越しており、キラーぶりを発揮している。勝てば昇進に大きく近づく。「体は悪くないから。あとは力を出せるようにしたい。別に力む必要はないし、いつも通り」。研究の成果を生かし、平常心で結びの一番を迎える。【大池和幸】